やられたらやり返しても良い?

話し合いが終了してからは昼食の時間となり、二人は先輩の奢りなので遠慮なく食べていく。


ティールは普段から運動するタイプなので、見た目よりもそれなりに食べる。

だが、ラストは完全に見た目よりも食べるので、どんどん空になる皿が増えていく。


普段から遠慮している訳ではないが、それでもタダで食べられると分かれば腹一杯になるまで食べる。


「……彼、結構食べるんだね」


「そうですね。ここの料理が相当気に入ったんじゃないですか」


食べ放題という訳ではないので、どんどん料理を頼むごとに先輩たちが支払う金額多くなる。


(ラストの奴……全く遠慮しないな。先輩たちが奢ってくれるから当たり前かもしれないけど)


二人以外のDランク冒険者たちも先輩の奢り、そして普段は食べないような料理がタダで食べられるということもあり、いつも以上に腹一杯になるまで食べようとしている。


「それは嬉しいね」


そう言いながらも、イグラスの表情は少々青かった。


「それにしても、やっぱり同じDランクぐらいの冒険者では相手にならなかったね」


離れた席で料理を堪能しているイギルには聞こえない声で呟く。


「……もしかして狙ってたんですか?」


自分とラストの実力を測ろうとしていたのか?

そう疑われても仕方ない言葉を吐いたイグラスだが、そんなつもりは全くなかった。


「いや、別に狙ってなんかないよ。まぁ……あぁなるかもしれないとは思ってたけどね」


「先輩なんですから、無理矢理止めてくれても良かったんじゃないですか?」


「ふふ、確かに無理矢理止めることは出来るけど、キラータイガーやヴァンパイアを倒した君達なら、イグラスぐらいは容易にあしらえるでしょ」


「……それはそうですね」


ランクCのキラータイガーやランクBのヴァンパイアを倒した者が、Dランクの冒険者に負ける訳が無い。

その考えは決して間違ってはいなかった。


実際、イギル程度であれば軽く吹き飛ばせるのでティールも大して文句はない。


「単純な疑問なんですけど、あいつが戦闘中に俺を狙ってくる……なんてことはありますか」


もしもの可能性について先輩冒険者に尋ねた。

イグラスは食事の手を止めず、普段どりの顔で考えるが……その表情には真剣さが伺えた。


「可能性としては、ゼロとは言えない。そういった事件が偶にあるから」


「そうですか……まぁそうですよね」


妬み、羨む相手を殺したくなる。

一般的な人間であれば、そういった感情を特定の相手に抱いてしまうのは仕方ない。


それはティールも解っている。

嫉妬や妬みという感情を幼馴染であるレントに対して抱いたことがある。


(ぶっちゃけ本当に幼かったから殺したいとまでは思わなかったけど、イギルからすれば俺は十分殺したい対象だろうな)


自分を殺したいほど恨んでいる者がいるかもしれない。

それが分かったところで、慌てるほどティールの肝っ玉は小さくない。


「そういうのって、やり返しても良いんですか」


「……難しいことを聞くね」


やられたらやり返しても良いのでは?

何も知らない者であればそう思ってしまうだろう。


ティールもまだ冒険者になりたてということもあり、こっそりやり返しても良いのではと思っていた。


「やり返すとなると、その行為が露骨に現れるかもしれないだろ」


「つまり、疑われやすいというわけですか?」


「そういうことだね。ただ……今回は最初にやろうと思っている人がバレバレだから、仮に向こうが事故で済ませようとしても、白い目で見られるのは確実……もしくは降格処分をくらうかもしれないね」


冒険者の資格をはく奪されるとまではいかずとも、完全に印象付けられてハブられる可能性は大いにある。

今回の場合など特にティールとラストを狙いやすい人物が特定されている。


「でも、君たちの速さに彼らは追いついて行けないと思うよ。それに、討伐の最中……僕らも彼らの行動には眼を光らせておくよ」


「そうしてもらえると助かります」

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