緊張感の差が大きい

イグラスからの誘いを受けたティールは三日後、指定された料理店に行くことが決まった。


「楽しみだな、マスター」


「ん? そう、だな……でもコボルトとオークだぞ。そんなに楽しみか?」


ラストの実力であれば、二体とも苦戦するような相手ではない。

上位種が多くとも、決してラストが戦闘を楽しめるような個体は少ない。


(物凄く戦闘に特化してる個体ならラストでも楽しめるかもしれないけど……コボルトとオークぐらいだと、せいぜい緊張感のある運動ぐらいにしかならないんじゃないか?)


今回の誘いを受けるにあたって、確かにティールは少し面白いと内容だと思った。

だが、戦闘面でとても刺激を感じるとは思っておらず、良い経験が出来るなぁ~~~程度にしか考えていない。


「ヴァンパイアの時の様に、強い個体から向けられる殺気っていうのも闘争心を奮い立たせるが、四方八方から殺意を向けられる状況と言うのも、また別の緊張感がある」


「四方八方から、ね……そういうことか。まぁ、言いたいことはなんとなく解かる」


単体で強大な力を持つモンスターから殺気を向けられる状況と、複数のモンスターから狙われる状況。

そのどちらもティールは体験したことあるので、なんとなくラストの気持ちが解る……解るが、ラストは一つ大事なことを忘れていた。


「なぁ、ラスト。まさか忘れていないとは思うが、今回の討伐は俺たちだけじゃなくてイグラスさんのパーティーメンバーや、他のパーティーも合同で参加するんだぞ」


「…………あぁ、勿論覚えてるぞ」


絶対に忘れていたなと確信出来る間があり、ティールは小さく噴き出してしまった。


(ふふ、冷静な顔してるのに戦闘のことになると結構忘れっぽいというか、あまり周りを見ないかもしれないな)


後ろには自分がいるので問題無いと思っているので、そこを咎めようとは思わない。


「多分、討伐には十数人……もしかしたら二十人ぐらいが参加するかもしれないんだ。数が多くても、ラストが想像してるような緊張感は得られないかもしれないぞ」


「む……そうかもしれないな。であれば、強敵が現れるのを祈るしかないか」


「はは、普通はそういった個体が出現しないことを祈るものなんだけどな」


コボルトやオークの上位種にはCランクの個体もいるが、総合的な戦力では先日戦ったキラータイガーの方が上。

もし強敵と戦えるのであれば、ラストはキラータイガー以上の力を持つ個体が現れるのを祈っている。


(ラストが望む強敵となると、やっぱりコボルトジェネラルやオークジェネラルあたりか? 全体数が八十体ぐらいの巣となれば、ジェネラルがいてもおかしくないな。今度集まる時に、イグラスさんにジェネラルがいたらうちのラストに譲ってくださいって頼むか)


いったいどんな人たちが集まるのかは聞いていない。

ただ、ティールは強敵を引き受けると提案すれば、基本的に反対する人はいないだろうと考えていた。


「マスターも、本当は強敵と戦う時の緊張感が欲しいだろ。ブラッディ―タイガーと戦った時の様な」


「え? いや……あぁいう緊張感は、ちょっと遠慮したいかな」


あの頃よりも少しは強くなり、新しいスキルも増えた。

しかし、あの時……ブラッディ―タイガーと対峙した時の緊張感や恐怖は脳がハッキリと覚えていた。


(キラータイガーと戦った時も緊張感はあったけど、あれは単純に見え辛くてどこから攻撃が飛んでくる予測しづらいってのがちょっと怖かったけど……ブラッディ―タイガーとの戦いは常に首が心臓に刃を突き立てられてるような恐怖があったな……うん、やっぱりあんな緊張感は御免だ)


ある程度緊張感がある実戦が冒険者としての闘争心を掻き立てるのは解る。

ただ……それでもティールは死にたがりではない。


なので、短期間の間にまたブラッディ―タイガーの様な超強者と遭遇するのは勘弁してほしいと、切実に思っている。

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