先に見つけられた獲物
「確かに刺激がある戦いは楽しい部分があるかもしれないが……うん、あの時の感覚はあまり思い出したくないな」
「……そこまで、苛烈な戦いだったのか」
「苛烈というかなんというか……この前戦ったヴァンパイアとは違った。俺はレッサーヴァンパイアとしか戦っていないからそう思うだけかもしれないけど」
ブラッディ―タイガーとヴァンパイア、どちらも同じBランクのモンスターであることに変わりはない。
だが、ティールの直感的にはブラッディ―タイガーの方が一枚上手の様に感じた。
(ブラッディ―タイガーに冷静さとかがなかったとは思わないけど、ヴァンパイアの方が人と同じ言葉を喋るからこう……獰猛さ的な野性? がなかったからか?)
頭の中で二体の何が違うのか考えるが答えは出てこなかった。
「……マスターがブラッディ―タイガーと遭遇した時の状況を考えるに、守るべき存在がいたから。という差があるのではないか」
「守るべき存在、か……それは確かにあったな」
エリックやリース。
村を出てから初めて知り合った者たちが拠点とする街が直ぐ傍にあった。
こいつに負ければ、次は街が襲われるかもしれない。
そしてまともに戦える者は自分一人しかいなかった。
(確かに色々あってヴァンパイアと遭遇した時と比べれば、それなりに状況は違ったな)
守りたいと思う存在が自分の後ろにあり、そして戦える者は己一人だけだった。
その状況が恐怖を加速させていたのは間違いない。
「今は隣に俺がいる。それに、ブラッディ―タイガーと遭遇した時と比べれば、マスターも確実に強くなっているだろう。もう一度遭遇しても、同じ流れになるとは限らないぞ)
「……かもしれないな」
ここ最近で再生、隠動などのそう簡単には習得出来ないスキルを奪うことに成功。
相変わらず短いスパンでモンスターと戦っているので、比較的習得している場合が多い身体強化のスキルなどは既に高ランク冒険者並みまで上昇している。
(そうだな……隣に誰かがいるってのは、安心出来るな)
多くの者たちに言われるまで、正直ソロで行動し続けるのもありだと思っていた。
誰かに合わせることなく、自分の動きたいように動ける。
ただ、過去と現在の状況を思い出し……一人は一人で心細く感じることがあると自覚させられた。
「それでも、個人的にはあんまりキング種とかは現れてほしくないけどな」
「……冒険者としては、それが一般的な考えだな。だが、肉は美味そうだから是非とも倒してみたいという思いがある」
「美味い肉か……そこはちょっと同感だ。でもな、キング種だけじゃなくてジェネラルとかリーダー種もそうなんだけど、その個体がいることで他の同種族の動きが統率されて、更には能力が向上されるんだ」
軍団を纏める種が持つスキルによって能力が向上したとしても、二人の能力と力があれば何とか出来る可能性が高い。
しかし今回引き受けた討伐には、ティールとラスト以外の冒険者がそれなりに参加する。
「俺たちだけなら……正直なところ、なんとかなると思う」
ティールはブラッディ―タイガーと戦った時の二振りを持ち、ラストはヴァンパイアと対峙した時に使った二振りを使えばまずは雑魚を一掃。
そして残る大将首を狙う。
そんな戦法を取ることが出来るが、他の冒険者が多くいる中であまり武器や技をぶっ放すと、意図してはおらずとも当たってしまう可能性がゼロではない。
「それでも、団体で戦うなら色々と気を付けなければならない……だから、俺としてはやっぱりキング種なんていない方が良いよ」
「マスターは本当に色々と考えているな……なぁ、マスター。先に俺たちだけでコボルトとオークの巣を潰しては駄目なのか?」
「……ちょっと良い案だと思ったけど、先に同業者たちが見つけてるんだ。俺たちだけで先に潰せば、獲物を横から掻っ攫う形になる。そんなことしたらどうなるか……ちょっと考えれば解かるだろ」
「うっ……すまない。少し安易すぎた」
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