そこら辺の運がないかも

「えぇ、少し前にオルアットたちと知り合いました」


ティールは己の不運を少々呪った。


(はぁ~~~……まさかこの人がニーナさんだったとはな)


目の前のスタイル良好、健康美人こそオルアットが憧れ惚れている同郷の先輩冒険者、ニーナだった。


(リーシアの時といい、俺はもしかしたらそこら辺の運がないのかもしれないな)


今回はリーシアの時と同じく一目惚れしてしまったのか……それとも男としての本能的な部分が刺激され、惹かれたのか。

どちらなのかは分からないが、アタックしてみようかという気持ちは一瞬でなくなった。


恋愛に関して、よっぽどよろしくない手を使わない限り、卑怯とはいえない。

ましてやニーナは現在、誰とも付き合っていないフリーな存在。


これからティールが懸命にアタックして無事付き合えたとしても、オルアットは文句を言える立場ではない。


ただ、ティールにとってオルアットたちは良い友人だと思っている。

それに本人の目の前で「今より強くなって、隣に立つ男として相応しくなる!」という目標を応援してしまった。


そんなこともあり、ティールは僅かに芽生えた思いをそっと掻き消したのだった。


「そうなのね。オルアットたちは元気にしてたかしら」


「え、えぇ……そうですね。元気にしてると思いますよ」


ティールが助けに入らなければオークの餌になっていたのは間違いないが、それでも現在はティールから受けたアドバイスを参考にして、地道に力を付けようと頑張っている。


「まっ、あれだ。何はともあれティールとラストのお陰で助かったぜ!!」


「そうですね。正直、あのまま私たちだけで戦っていれば全滅していたかもしれません。ティールさん、ラストさん。お二人のお陰で私たちは助かりました。心よりお詫び申し上げます」


「い、いえ。俺たちは俺たちの判断で皆さんの戦いに割って入っただけなんで。な、ラスト」


「そうだな。お陰で良い戦いができた」


Bランクという己より格上とのバトル。

その強さと圧を感じ取れる貴重な体験。


そして特別な斬馬刀とソードブレイカーがなければ勝てなかったという点。

これが分かっただけでもラストにとって収穫となる一戦だった。


「という訳なんで、頭を上げてください」


「そういうわけにはいかないの。レッサーヴァンパイアだけならまだしも、ヴァンパイアは私たちだけの手では倒せなかった」


「うむ、シル殿の言う通り。今回の一件、私たちの不注意から起こしてしまった。それを結果的にティール殿たちに解消していただいた。深く感謝しないわけにはいかない」


もう一度天翼の五人はティールとラストに礼を言い、深く頭を下げた。

二人が自分たちより年下で、ルーキーなのは知っている。


だが、それよりも前提として二人は自分たちよりも強く、自分たちを助けてくれた。

その事実に対する礼を述べるのに、プライドや見栄が邪魔になると感じるうちはまだまだ三流。


「俺としては、やっぱり礼に晩飯を奢りたいと思うんだが、お前らはどう思う?」


「賛成ね。それなら急いで街に戻らないと」


既に太陽が隠れ始めている。


レッサーヴァンパイアとヴァンパイアの死体を回収し、七人は急いでヤドラスへと戻る。


(五人とも迷わず進んでくな……やっぱりここの遺跡はもう何回も探索してるんだろうな)


何度も探索しているからこそ、特に地図を見ずとも出口まで走れる。

ただ、そんなニーナたちもミスを犯してしまうこともあった。


まだ誰も開いたことがなかった扉を開き、中に入ると先程ラストと戦っていたヴァンパイアが鎖で四肢を繋がれていた。


その一室ではヴァンパイアの体は使った実験が行われていたが、光源代わりにしていたアルスの火球が凍っていた体を溶かし、運悪く目覚めさせてしまった。


五人が部屋に入った瞬間に脳と心臓を同時に潰す。

もしくは魔石を無理矢理取り除いていればレッサーヴァンパイアを召喚され、不利な状況に陥ることもなかった。

ただ、パッと見て完全に死んでるように見えたので、誰もまだ微かにヴァンパイアが生きていることに気付けず、いきなり戦闘が始まってティールたちと運良く遭遇したのだった。

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