直ぐに掻き消した

「馬鹿、な……いずれ至高の存在となる、この、私が……」


「お前みたいな干物野郎が、至高の存在などになれる訳がないだろ。身の程を知れ」


ヴァンパイアは最後までラストや後ろのティールたちを見下すという態度を変えなかったが、それでも斬馬刀とソードブレイカーを装備したラストの敵ではなかった。


(咄嗟にヴァンパイアに対して有効であろう斬馬刀とソードブレイカーを渡したが、よくあれだけ器用に使いこなすな)


斬馬刀は大剣に分類され、ソードブレイカーは短剣に分類される武器。

二刀流として扱うには難しい二振りなのだが、ラストは問題無く的確に二つの武器を同時に操っていた。


(てか、こっちのお姉さん随分と健康そうな美人って感じだな)


意識を向けた人物は五人の内の一人、アタッカーを務めている女剣士。

ティールが考える通り、美人ではあるが健康的な肉体を持つ。

若干同性からも人気があるような見た目を持つ女性に気を惹かれた。


「お疲れ、ラスト」


一人の女性に惹かれながらも、まずは殆ど一人で戦った仲間に労いの言葉を掛ける。


「どうだった、ヴァンパイアとの戦いは」


「……非常に肝が冷えた。マスターから渡された斬馬刀とソードブレイカーがなければ、おそらくやられていたのは俺の方だろう」


結果的に大きなダメージを食らわずに済んだが、それでもラストは今回の結果は強力な武器を手にして戦ったからこその結果だと認識していた。


「俺個人の力では、まだあのヴァンパイアの力には届かなかった」


「ん~~~~、その可能性はあるかもしれないけど、お前ちょっと抑えて戦ってただろ」


ヴァンパイアを相手に力を抑えて戦っていた。

その言葉を聞いたティーラスたちは大きな声を出さなかったが、全員が驚いた。


「場所が場所だからな。あんまり暴れて遺跡をボロボロにしていまう訳にはいかない。そう考えながら戦っていただろ」


「一応冒険者として活動しているのだからな。ただ、やはりこの二つがなければ今回の様に余裕をもって倒すのは無理だった。礼を言う、マスター」


「別に武器を貸すぐらい構わないよ。お前が楽しんでくれたようでなによりだ」


ティールもヴァンパイアとの戦いに興味はあったが、いずれ冒険者として活動していれば、戦う機会はある。

そう思い、まずはこの助太刀に入ったパーティーと話し合う。


「このヴァンパイアの死体は俺たちが貰っても良いですか」


「え、えぇ。勿論よ。私たちの力だけではヴァンパイアに勝つことは到底不可能だったのだし、当然の権利よ」


五人ともティールたちがヴァンパイアの死体を持ち帰ることに不満はなかった。


ヴァンパイア一体だけと戦うのであれば勝機はゼロではない。

しかし眷属召喚のスキルを使い、レッサーヴァンパイアを呼ばれると勝ち目が完全にゼロになる。


「そういえばまだ名乗っていなかったね。Cランクパーティー、天翼のリーダーを務めているニーナよ」


「どうも、Dランクのティールです。よろしくお願いします」


エルフのアーチャー、シル

狼人族のメイジ、アルス

虎人族のタンク、ティーラス

人族のヒーラー、セイラ


天翼は非常にバランスの取れたパーティーであり、まだまだ実力発展途上。


全員の自己紹介を聞いたティールはバランスの取れたパーティーだな~~と思っていると、リーダーであるニーナという名前が気になった。


(ニーナ、ニーナ……えっ、もしかしてそういうことなのか? いや、同姓同名ってこともあるかもだし……でも現在はCランク。そして……多分このまま成長すれば、Bランクになるであろう逸材)


過去に聞いた名前と特徴が一致し、恐る恐る事実を確認する。


「あの、ニーナさんはオルアットたちと同郷……なんですか?」


「えぇ、そうよ。もしかしてオルアットたちの友達?」


(……うん、しょうがない。今回も運がなかったということで諦めよう)


色々と事情を思い出したティールは一瞬生まれた思いを直ぐに掻き消した。

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