起こすか否か

「……本当に何もなかったな」


体内時計が約八時間経ち、ラストは目を覚ました。


風の結界は未だに健全であり、結界の外にはモンスターの死体がいくつか残っていた。


「運悪く頭部を切り裂かれてしまったようだな。それにしても、本当にマスターの力は桁外れだ」


八時間経っても結界は健在。

結界に触れようとしたモンスターは逆に殺されている。


ただ、本人の戦闘スタイルとしては接近戦がメイン。

そんなマスターは現在のんびりと眠っている。


ラストの体内時計は正しく、人が一日の睡眠に必要な時間は既に経っていた。

しかしティールはのんびり寝るのが好きだということは知っている。


(やはりここは起こさないのが正解なのか? しかし今回遺跡にやってきた俺たちの目標はキラータイガーの討伐。マスターはなるべく宿屋のベッドで寝たい……それを考えるとやはり起こすべきか)


軽く体をゆすり、声を掛けるとティールは眠たそうな顔をしながらも起き、水で顔を洗う。


「ふぅーーー、目が覚めた。起こしてくれてありがとな」


「奴隷として当然のことだ。今日の目標もキラータイガーの捜索、で良いのか?」


「そうだな。ヤドラスの遺跡をじっくり探索してみたい気持ちはあるが、サクッとキラータイガーを見つけて倒して帰る」


朝食を食べ終えた二人は、結界の外に転がっていた死体の魔石だけを回収し、他は放置。


偶に同業者とすれ違いながらモンスターと遭遇しては倒すを繰り返し、あっという間に昼食の時間になってしまった。


「中々見つからないな」


「ギルドが居もしないモンスターの討伐依頼を出すとは思えないが……そもそも見つけ辛いモンスターなのかもしれない」


「そういうものか……できれば今日中に見つかってほしいな」


キラータイガーは闇に身を隠すのが上手く、そもそも見つけるのが難しい。

だが、例え今日見つからなくとも依頼失敗にはならない。


そして金に困ってはいないので、焦る必要もない。


昼食を食べ終えたら再び捜索を再開。

すると、一時間ほど経ってから一組のパーティーと顔があった。


「な、なぁお前ら! ポーションを持ってねぇか? 金は払うから持ってたらくれ!!」


四人組パーティーのうち、一人の背には大きな爪痕が残っていた。

その人物だけではなく、パーティー全員が大なり小なり爪撃を食らっていた。


(これはもしかしたら……)


探しているモンスターが近くにいるかもしれない。

そう感じたティールは亜空間からポーションを取り出し、渡した。


「使ってくれ」


「すまねぇ!!」


受け取った男は直ぐに仲間の傷にポーションを掛け、傷は徐々に癒されていく。


「はぁ~~~、良かった。大丈夫そうだな。おっとすまねぇ……その、今金がなくてだな……こいつでも良いか?」


男がティールに渡した者はCランクモンスター魔石。

売ればティールが渡したポーション以上の値段になるのは間違いない。


そもそも渡したポーションはティールが作った物なので、かなり儲けたことになる。


「あぁ、十分だよ。それにしても、随分と爪による傷跡が多いな。どんなモンスターにやられたんだ?」


「動きが速い……というより、姿が確認しずらかったって言えば良いのか? あまりそういうのを確認せず逃げてきたんだが、体が黒かったのはなんとなく覚えてる。多分だが、あれはキラータイガーだった筈だ」


「……そうか。情報提供ありがとう」


「良いってことよ。お前がポーションをくれなきゃ、うちのメンバーが危なかったからな。これぐらいの情報なんて大したことねぇよ」


まだ近くにいるかもしれないから逃げた方が良いぞと言われ、同業者と別れた。

だが、せっかくの情報を手に入れたのに逃げるわけにはいかない。


二人はニヤッと笑いながら同業者が来た方向へと歩を進める。


「良い情報が手に入ったな」


「そうだな。まだ近くにいれば、今日中に依頼を達成できるだろう……マスター、今のうちにロングソードを貸してもらっても良いか」


「分かった」


大剣を振り回すには問題無い広さだが、それでもキラータイガーに当てるとなればもう少し小ぶりの武器が良いと判断し、ランク三のロングソードを手にした……その瞬間、殺気が二人の傍を通り過ぎた。

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