環境と相性が良い
何かが自分たちの間を通り過ぎた。
その瞬間……二人はその方向に向かって反射的に攻撃を放っていた。
だが、反射で放ったが故に、相手が何なのか判断できていなかった。
「ッ、ラスト……どうやら釣れたみたいだな」
「そのようだな、マスター」
二人の我前に現れたのは討伐依頼を受けた標的……キラータイガー。
標的の発見に喜ぶ部分もあるが、それよりも二人はキラータイガーが自分たちの間を通り過ぎるまで気付かなかったことに驚く。
(反射的に蹴りを繰り出せたから良かったものの、まさかここまで接近してくるのに気付かなかったなんて……まさにキラー、殺し屋だな)
キラー……その名を持つに相応しい虎は気配遮断の上位スキル、隠動を習得している。
気配遮断は気配を消す代わりに、その場から動けない。
練度が上がれば動けるようになるが、走れば気配遮断の効果が消える。
しかし隠動は気配を消しながら高速で動くことが可能。
「ラスト、逃がさないのを最優先。だが、決して無理に攻撃するな」
「了解」
動かなければ勝負は終らない。
ティールは疾風瞬閃と豹雷を装備してスピードアップ。
身体強化を使えば完全にキラータイガーの速度を上回る。
しかし微かに感じている気配が狙いを狂わせ、中々クリティカルヒットしない。
加えて、学者ではないが自分たちが不利な状況に追い込まれる可能性があるので、あまり遺跡内を壊す様な攻撃はしたくない。
そして挟んで攻撃していることで、斬撃を飛ばせば味方にぶつかるかもしれない。
よって、攻撃方法は接近してからの一撃しかない。
「チッ!!! 中々厄介だな」
二人とも夜目のスキルを持っているので、光が少ない遺跡の中でもキラータイガーの姿を目で追える。
しかし、それでも隠動の効果で皮を斬れても肉が裂けない。
だが、今の状況に苛立っているのは二人だけではなく、キラータイガーも中々勝負を決められないことに苛立っていた。
普段の戦いは数撃で終わる。
相手の力量によっては初手の奇襲で終わる場合だってある。
黒い体毛が薄暗い遺跡と相性が良く、ここならば自分は負けないという自信があった。
しかしそんな自信が徐々に崩されていく。
相手の攻撃はいつも通り、殆ど自分に当らない。
斬撃が掠ることはあれど、肉や骨は裂けていないので大したダメージではない。
だが、自慢の爪や牙、意外と鈍痛を残す尾による攻撃が決まらない……そんな今までは体験してきたことがない苦戦という状況が、キラータイガーを苛立たせていた。
(直線の動きだけかと思えば緩急を付けて小回りができる……環境が環境なだけに、ブラッディ―タイガー並みに厄介な部分があるな……この環境下だけなら、もしかして討伐難易度はBランクか?)
ティールは余裕を持ちながら攻撃を躱し、更にはカウンターを決めようと動く。
そしてラストは素の脚力はティールに劣るが、そこは闘気で脚を強化することでカバーしている。
(流石ラストだな。足りない分はしっかりと補っている……確か竜人族には固有スキル、竜気があったから更に強化出来るんだよな。簡単には習得出来ないスキルらしいけど、それも習得してたし……本当に高いポテンシャルを持ってるよな)
二人のスタミナを考えれば、キラータイガーを逃すことはない。
だが、二人は冒険者としてなるべく原型を壊さずに仕留めたい……ラストはその考えがあまり大きくないが、主人であるティールがなるべくそうしたいと思って動いてるのを理解しているので、無理に殺しに掛かろうとはしない。
(さてさて、いったいどうやって綺麗に殺そうか。そんなに焦る必要はないんだけど……スタミナはどう考えても向こうが上だからな)
野性のモンスターは生まれつき、スタミナが桁外れ。
スタミナが切れて動きが鈍ったところを仕留めようとするのは愚策。
だが、魔力は話が違う。
隠動は気配遮断と同じくスキルの消費量が多くないが、キラータイガーの総魔力量はCランクの中でも決して多い方ではない。
魔力が切れて隠動が使えなくなった瞬間を狙う。
二人なら時間はかかるが、その作戦を実行出来る。
しかし、魔力切れを待つ前にティールは一つ……一発で勝負が決められるかもしれない案を思い付いた。
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