大金を持つDランク冒険者

「すいません、これで買える奴隷を探してるんですけど」


「……えっ! しょ、少々お待ちくださいませ」


ティールはカウンターに到着するなり、受付の女性に白金貨四枚を見せてこの値段で買える奴隷を探していると伝えた。


一瞬、目の前に置かれている物が何なのか把握するのに間があったが、従業員は一言告げてから直ぐに奥へと消えていった。


すると、直ぐに人が転んだであろう音が聞こえた。


「おいおい、ちょっと焦り過ぎじゃないか?」


先程の女性はまさかの上客に興奮して走りながら上司の向かう途中、慌て過ぎて盛大に転んでしまった。

しかし今はそれを気にする余裕はなく、再びダッシュで上司の元へと向かった。


奴隷というのは当然、値段が高い。

だが、白金貨四枚ともなればだいたいの奴隷は買えてしまう。


自分では上手く相手する余裕はなく、職員は店のトップにティールのことを話した。


「お、お待たせしました。一旦個室に移動しますので付いて来てください」


「あ、はい。分かりました」


職員は上司……店長に話した結果、店長直々にティールの販売担当をすることになった。


「失礼します」


「うむ」


部屋の中から小さな声が返ってきのを確認し、職員はドアを開けてティールを中に案内する。

中には一人の初老男性がソファーに座っていた。


(随分良い服着てるな。この街一番の奴隷館なんだし、客にも嘗められないためといえば当然か)


職員に促されるままにティールもソファーに座る。


「どうも。この店の店主、ジファーです」


「Dランク冒険者のティールです、よろしくお願いします」


丁寧に挨拶されたので、ティールも丁寧に言葉を返した。

見た目は優しそうな初老の男性。


だが、なんとなくあまり気を抜いてはならないとは思えた。


「ティール様の予算は白金貨四枚と聞いていますが」


「そうですね。白金貨四枚で買える奴隷がいればと思ってます」


先程と同じく、懐から白金貨四枚を取り出す。

ジファーは警備の兵と同じく、鑑定のスキルを持っているのでティールが手に持つ白金貨が本物かどうかが解る。


(ふむ、本物の白金貨。しかしDランクの冒険者が白金貨を四枚も……)


冒険者事情は多少知っているので、Dランクの冒険者が白金貨を四枚も溜め込めないのは知っている。


(もしやこの格好と雰囲気で貴族の令息、なのか?)


奴隷館には貴族がよく来店する。

なので、貴族が観に纏う独特な雰囲気は解る。


だが、ティールからはその雰囲気を感じないのでジファーは目の前の少年の素性が解らない……解らないが、上客であるのは間違いない。


「なるほど。それではティール様が欲する奴隷の種類ですが、戦闘用の奴隷……もしくは欲を満たすための奴隷。どちらをお求めでしょうか」


「戦闘用の奴隷です。できれば、成長の余地がある奴隷が好ましいですね」


欲は満たす奴隷。簡単に言えば、美貌とスタイルが優れた奴隷だ。

そういった行為が許された奴隷というのも存在する。


だが、どんな種類の奴隷であっても、主人が守らなければならないルールがある。


「戦闘用の奴隷ですね。ちなみにですが、奴隷の主人となる方は奴隷の衣食住を用意する必要があります。そちらは大丈夫でしょうか」


「はい、問題ありません」


「そうですか。それでは移動しましょう。実際に戦闘用の奴隷を見て、気になる者がいれば声を掛けてください」


応接室から出て、奴隷たちが生活している場所へと足を運ぶ。

その部屋の雰囲気は暗かった。

だが、部屋が汚れているとは思えない。


(売られる前の奴隷だから当然良い暮らしはできない。ただ、最低限の保証はされている……当たり前といえば当たり前か)


奴隷商の中には本当に高値で売れそうな奴隷以外はよろしくない環境で生活していることもあるが、それは店によって差がまちまちある。


(……なるほど。流石ヤドラスで一番の奴隷館、か。鑑定を使わなくても粒が揃ってると解る)


部屋の中に入っている戦闘奴隷たちを一目視て、それなりの実力者が揃っていると解かったティールは期待を膨らませる。

だが、そんな戦闘奴隷たちの中で一人、気になる奴隷がいた。

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