何故違う?
日が暮れ、そろそろ狩りを止めようと思い、街へと戻る。
そして宿に戻る前にギルドへ向かい、ツインヘッドベアーを討伐したことを報告しに行く。
時間帯的に仕事終わりの冒険者が多く、ギルドの中は密々していた。
「人が多いな……それと、やっぱりちょっと汗臭い」
森の中を歩き、モンスターを相手に戦えばそれだけ多くの汗を流す。
そうなれば、必然的に臭いと感じてしまうのは仕方ない摂理だ。
(でも、女性の冒険者はそうではないんだよな……寧ろ、何故かちょっと良い匂い? がする)
世の中には女性の汗の匂いを好む、少々変態チックな性癖を持つ男もいるが、その世界はまだティールには早かった。
「列も長い……まっ、それはいつもの事か」
面倒と思いながらも自分の番が来るまで待つ。
ただ、大きな荷物を背負わず列に並んでいるティールを奇妙な目で見る者がチラホラといた。
「すいません、モンスターが大きいんで倉庫を借りても良いですか」
「倉庫、ですか……あの、因みですが素材や魔石はお持ちなんですよね」
「空間収納を持ってるんで、亜空間の中に入れてます」
「そ、そうでしたか。少々お待ちください」
予想外の言葉に受付嬢だけではなく、周りの冒険者も驚いた。
「こちらへどうぞ」
周囲の冒険者たちはティールが本当に空間収納を持っているのか疑っている者がおり、陰口を呟く者もいた。
しかし空間収納を持っているのは事実なので、ティールにとって陰口などは痛くも痒くもない。
「それでは、こちらにモンスターの死体を出してください」
「分かりました。他に倒したモンスターの素材も一緒に出して良いですか」
「勿論です」
許可を得ると、次々に素材と魔石を出し始める。
「……うそ、でしょ」
思わず小さな声が漏れてしまった。
だが、出されていく素材と魔石の量がティールの見た目似合わない。
そして最後に……メインであるツインヘッドベアーの死体を取り出した。
「これが、解体してほしい死体です」
「わ、分かりました。直ぐに解体士を呼んで……えっ、このモンスターって」
受付嬢であれば、最近冒険者たちを悩ませているモンスターの存在などは既に頭に入っている。
亜空間から取り出されたモンスターは熊。
頭は二つ、そして腕は四本。
噂のモンスターにそっくりだった。
「ツインヘッドベアー、Cランクのモンスターです。一応最近噂のモンスターに似てると、個人的には思います」
「ッ!!! しょ、少々お待ちください!!!!」
受付嬢は猛ダッシュで倉庫から出て行った。
すると、直ぐに解体士の二人が入ってきた。
「おぉう!! こいつが噂の熊か……それで、坊主がこいつを倒した、のか?」
「疑問に思うのは当然かもしれないですけど、こいつは俺が倒しました」
「そうかそうか……背後から頭を刺して終了、か。解体士としては有難い状態だ」
「そう言ってい貰えると、光栄ですね」
「解体は任せな、ゆっくりしててくれ」
お言葉に甘えてのんびり待つが、暇なのは変わりないので作業光景を見て時間を潰していた。
(おっちゃん解体士の方が完全に上だな。それは当たり前か……センスも必要だが、経験がものをいう技術だからな)
解体の腕にはそれなりに自信がある。
だが、それでも年配の解体士には敵わないと思った。
「こんなところだな。にしても、噂のモンスターを一人で倒すとはな……坊主、ランクはいくつなんだ?」
「Eです」
「……こいつを一人で倒せるのにか?」
どう考えてもランクC、もしくはB並みの実力があるのは解る。
「実力はランクで決まりませんよ。それに、俺は冒険者になって半年も経っていません」
「そうなのか。実力がある者はそれ相応のランクになるべきだと俺は思うがな。こいつを一人で倒したなら、Dランクに上がれるんじゃないか?」
一般的に考えれば、Cランクのモンスターを一人で倒せる実力者がEランクに収まっていて良い訳がない。
ただ、前回は特例としてEランクに留まらせてもらった。
しかし……どの街にギルドマスターであっても、ティールがいつまでもEランクに留まっていてほしいとは思わない。
「……ルーキーがあまり目立ち過ぎれば、面倒な輩が絡んでくるでしょう」
「それはそうかもな。ただ、坊主の力は隠そうと思っても隠せるもんじゃないだろ。なら、いっそランクなんて気にしなくても良いんじゃないか? ギルドカードはランクによっては権力に変わるしな」
一理ある考えに悩まされる。
だが、長考しようとしたところで先程の受付嬢が戻ってきた。
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