本能的に回避

朝から元気良くモンスター狩りを初めて数時間……少々奥に入って探索を行った結果、意外にも早く目的のモンスターに遭遇した。


「グルルルル……」


「頭が二つに腕が四つ……なるほど、噂通りだな」


運良く対面したティールは即座に鑑定を使って調べる。


(名前はツインヘッドベアー。名前の通り頭が二つ、そして腕が四本……実際に対面すると厄介さが伝わってくるな)


頭が二つあることで、通常の熊系モンスターよりも視野が広い。そして片側に腕が二本あるので攻撃に対処しやすい。


(ランクはC。それに爪術、体術と身体強化に腕力強化のスキル……完全に接近戦よりだな)


目の前の相手はそれなりに厄介、それを再認識して戦いに臨む。


「そっちが来ないなら、こっちから行くぞ」


手には普段使っているロングソードではなく、ブラッディ―タイガーの素材から作られたバスターソードが握られている。


(あまり手を緩める必要はなさそうだ)


様子を見るからに、既にティールを警戒している。

警戒しているということは、油断していないのと同義。


「おらっ!!!」


「ッ!!!」


ツインヘッドベアーの反応速度よりもティールの脚力の方が勝り、残った選択肢は防御のみ。

腕四本をクロスさせ、バスターソードの斬撃を待ち構える。


「へぇ~~、そう簡単にあっさりといかないか」


軽い斬り傷は与えられたが、魔力を纏っていたということもあり、大きなダメージにはならなかった。

だが、今の一撃でツインヘッドベアーは少々動揺を受けた。


「皮膚が堅いのか、それとも魔力の硬度が高かったのか……それなら、今度はこっちも刃に魔力を纏うか」


それだけではなく、追加で脚力強化も使用。

先程の動きに眼が慣れたツインヘッドベアーは一瞬ではあるが、ティールの姿を見失ってしまった。


しかし運良く……いや、冒険者側としては運悪く野生の勘が働いてしまい、無意識のうちに体を下げた。


「ちっ、やるじゃねぇか」


首をぶった斬ろうとしたが、寸でのところで躱されてしまった。

だが、斬撃だけでは終わらず、脚力が強化された脚で背中から蹴飛ばした。


「グラッ!!??」


無意識に体は下げたが、相手がどこに消えたのかは分からず、まともに蹴りを食らってしまった。

直ぐに起きようとしたが、時既に遅かった。


「あらよっと」


蹴り飛ばした直後には宙に跳び、上から頭を二刺し。


「ッ!!!!! ……」


その二撃で死合は終了。

たった二撃ではあるが、言葉を変えればラストブレイク、クリティカルヒット。


一気に生命力をゼロまで減らした。

体はピクピクと動いたが、直ぐに全く動かなくなり……完全に絶命した確認がとれた。


「さすがに後ろまで眼は届かなかったか……なんか、期待していたよりはあっさりと終わってしまったな」


死ぬかもしれない戦いをしたい訳ではないが、もう少し良い戦いができると思っていたティールからして、今回の戦いは少々拍子抜け。


だが、今のティールの身体能力は中々バカにならない。

身体能力は冒険者の中でもトップクラス……と言える程高くはないが、それでも上位は確実に入る。


そして身体強化に加えて脚力強化を使用すれば、並みのモンスターでは眼で追えても中々体は追いつかない。


ツインヘッドベアーはCランクの中でも強い方のモンスターだが、不意を突かれればあっさりやられてしまう。

今までの経験で負けというものがなかった故、警戒していても油断という心の隙間があったのも原因ではあるが、ツインヘッドベアーではティールとバチバチのバトルをするのは難しい。


「さて、さっさと解体し……ちょっと待てよ。一応こいつを討伐したって報告はした方が良いよな」


報告をした方が良いのは確か。

だが、自分が報告しても信じてもらえるかが問題。


という訳で、ティールはここで解体はせずに亜空間の中に死体をいれた。


「……昼過ぎぐらいか。まだ街に戻るには早いな」


戻ったところで、特にすることはない。

というわけで、いつも通りティールは夕方までモンスターを狩り続けた。


そして時間は午後五時を回り、だんだんと日が落ち始めた。

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