あまり深くは知らない
「はぁ~~~………一日探しても見つからないとはな」
少々衝撃を扱うのに夢中になっていたが、それなりに広範囲を探し回った。
だが、噂のツインヘッド熊さんを見つけられず、その日は捜索を断念した。
「後六日……爪跡も見つからなかったし、この街の付近から移動したって場合も考えられるか」
そうなれば、一つの街に留まって捜索できる訳がない。
「とりあえず、また明日も朝から探し続けるか」
幸いにも一日中動いても、次の日に全く支障はない。
子供の頃から村の外に出てモンスターを相手にする日々が多かったので、これぐらいでは疲れたうちに入らない。
ただ、動けばやはり腹が減る。
その夜は店員が少し引くほどの量を頼み、全て平らげた。
「ふぅーーーー、食った食った。風呂行こ」
この街はあまり活気はないが、大浴場がある。
それ目当てでこの街に滞在する冒険者は少なくない。
(でも、その冒険者たちもいつまでここにいるか……討伐すれば移動しないだろうし、目撃情報が減ってなくなれば移動しない。寧ろ多少増えるか?)
考えことをしながら大浴場に向かっていると、数名の冒険者が目に入った。
「……随分と重傷だな。致命傷って訳じゃなさそうだが」
チラッと視た限り、ルーキーには見えない。
しかし傷は大きい。
(もしかして噂のモンスターに遭遇してやられたのか? もしくは他にも厄介なモンスターが現れたとか……二つ目を期待するのは良くないか。この街にとっては超不幸な出来事だしな)
どういった経緯でそんな傷を負ったのか知りたいところだが、流石に訊けるような雰囲気ではなかった。
「……とりあえず今は風呂だ」
少々高く感じるが、それだけゆったりと湯を浴びて浸かる価値がある。
(自分で造れるんだが……さすがに街中でやるようなことじゃないしな)
他にも方法はあるが、そこまで金が惜しい訳ではないので大浴場に入り、さっぱりとしてから果実水を購入。
これも少々高いが、風呂上がりの一杯には勝てない。
(朝から夕方までがっつり倒したモンスターの素材や魔石の値段を考えれば、これぐらい安いもんだ)
職員には本当にティールが倒したのかと疑われたが、逆にやっていないという証拠もない。
買い取り金額には不満を感じなかったので、提示された金額で換金した。
そして考えは先程自分の視界に入った冒険者たちに移る。
(新たなモンスターが、ツインヘッド熊さんか……防具の破損具合から見てあれは斬り傷、みたいな感じだった……やっぱり噂のモンスターと遭遇したのか。となれば、今日は偶々遭遇しなかっただけってことだな)
大した日数を掛けずに対象と遭遇できる。
そう思えたティールは自然とやる気が溢れてきた。
しかし湯上りの眠気と良い気分には勝てず、ベッドに入ると即座に夢の世界へと旅立った。
「よしっ!!! 今日こそは見つけてやる」
翌日、早い時間に目が覚めたので早速朝食を取る。
すると直ぐにツインヘッド熊さんの話題が耳に入ってきた。
「昨日の夜の話なんだけどよ、Dランクのパーティーが噂の熊に襲われたらしいぞ」
「マジかよ!! だ、誰か殺されたのか」
「いや、幸いにも死者はいなかったらしい。ただ、半分は重傷を負ったみたいだ」
「……いつでも倒せるってポーズかよ」
昨夜ティールが見た重傷を負った冒険者たちはツインヘッド熊さんに襲われた。
しかし理由は不明だが、モンスターは殺そうとせずに冒険者たちを見逃した。
(それなりに知能が高いモンスターなのか? だが、冒険者を逃がすメリットはないと思うんだが……いや、人間に対しての知識が深くなければ、いずれ多くの人間たちが自身を討伐しにやって来るってことに気付かないか)
人に対しての知識は深くない。
だが、知能が高いということは周囲の会話から十分に考えられる。
(倒したい……もしくは、リベンジしたいモンスターでもいるのか? それか、人の味は不味いから倒しても殺す意味はないと思っている? ……ダメだ、全く予想がつかない。けど、このモヤモヤは実際に会え解消できそうだな)
気を取り直して朝食に食いつき、今日も元気良くモンスター狩りを始める。
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