噂の化け物

「今日はここまでか」


ヤドラスの遺跡に辿り着くには一週間ほど動き続けなければならない。

全力ダッシュで移動すれば時間は縮まるが、万が一の時を考えてスタミナは温存している。


そして今日は野宿ではなく、日が暮れる前に街に辿り着いたのでベッドで寝れる。


(大きくはないけど、小さ過ぎる訳でもない……特に長居する必要はないかな)


特徴がない街。

楽しめる場所がないと思い、翌日には街を出ようと決めた。


「……ここにするか」


宿は街の中ではかなり良いところを選んだ。

日頃から多くの素材と魔石をギルドに売っているので、それなりに余裕がある。


ブラッディ―タイガーを討伐した件で大金も得たので、一日ぐらい贅沢をしても問題はない。


(カジノに行けば直ぐにお金は増えるし……って考え方は良くないんだったな)


確かにカジノは一日で信じられないほどお金が増える場所だが、逆に信じられないほどの大金が消える場所でもある。


迂闊に頼るような真似をしては、ごっそりと懐から金を奪われる。


「それなりに良い場所だな。もしかして貴族が泊りにくることがあるのかもな」


そう思いながら勢い良くベッドにダイブ。

久しぶりのふかふかベッドの感触に溺れ、そのまま寝そうになってしまう。


しかしまだ夕食を食べていないので、無理矢理体を起こして普段着に着替えてから下に降りた。

席に座ると値段を気にせずに美味そうだと思ったメニューを頼み、料理がやってくるまでボーっと待つ。


だが、その間に面白そうな話が耳に入ってきた。


「おい、あの話聞いたか?」


「二つの頭を持った熊のモンスターか」


「そう、それだよ。本当にいると思うか? ちょっと信じ難いんだよな」


「……俺も最初は信じられないと思っていたが、目撃情報がそれなりにある……それなりに信憑性があると思うぞ」


男達の会話にティールは聞き耳を立てる。


(なんだなんだ、ちょっと面白そうな話だな)


偶々耳に入った話によって眠気が吹き飛んでしまった。


「それに頭が二つあるだけじゃなくて、腕が四本……そんなモンスターいると思うか? しかも顔は熊なんだぜ」


「実際に見た訳じゃないから完全に信用は出来ないが、目撃情報は全て一致している。それにその化け物に仲間を殺された奴もいるんだ……そんな相手の特徴を見間違えるとは思えない」


「……それは、そうかもしれないな」


いきなり暗い雰囲気に変わってしまったが、ティールはその化け物の情報がもう少しほしかった。


(熊タイプのモンスターで頭が二つ……それに腕が四本か。もしかして足も四本あるのか? いや、それはちょっと気持ち悪いな)


腕が四本というのは特に変だと思わないが、足が四本というイメージを浮かべると……流石にあり得ないなと思い、首を横に振った。


「はぁ~~、仮にそんなモンスターが本当にいたとして、倒せる奴がこの街にいると思うか?」


「……多分、ランクは確実にCランクだろうな。数を揃えれば倒せるかもしれないが……起こるかもしれない被害とかを考えれば、討伐に参加しない奴らもいるだろうな」


冒険者は全て自己責任なので、頭が二つで腕が四本の熊モンスターの討伐に参加して仲間を失っても、返ってくることはない。


メインの武器が壊れても、ギルドが保証してくれることはない。


働く場所が固定ではないので、ヤバいと思えば違う街に移ることも可能。


(この街で生まれて冒険者になった奴以外は特に残ろうとは思わないだろうな。その辺りの割合がどれぐらいなのかは知らないけど……それなりの人数が他の街に流れそうだな)


ただ、翌日には目的地に向かって進もうと思っていたティールの考えは真逆であり、その化け物に会ってみたいと思っていた。


(もう少し情報が欲しいところだけど……目標はヤドラスの遺跡なんだ。情報収集なんてせずとも走り回って探せば良いか)


眠気が完全に覚め、夕食をがっつり食べ終えたティールは一先ず大浴場へ向かった。

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