観察眼から狩人の眼に
「……はぁ~~~、なんか今日はすっきり目が覚めたな」
面白い噂話を聞いた翌日、ティールはいつもよりスッキリとした状態で起きた。
そしていつも通り朝食を食べ、ギルドに直行……することはなく、直ぐに街の外に出て目的のモンスターを探し始めた。
「頭が二つ、そして腕が四本の熊モンスター……ちょっと楽しみだな」
相手の強さはまだ解らない。
それで直感的に、ブラッディ―タイガーより強いということはない。
そう思い、噂のモンスターと遭遇するのが楽しみという感情が湧き上がってくる。
(Bランクってことはないと思うけど……もしかして片足突っ込んでたりするか? それぐらいなら本気を出せば大丈夫だと思うけど……というか、本当に噂通りのモンスターと遭遇したらバスターソードを使ってみるか)
新しく手に入れた三つの手札の内の一つ。
火属性の効果が付与されているバスターソード。
ただ、あまりに強力なので並のモンスターではたった一撃で勝負が決してしまう。
そして……森の中ではあまり不用意に火の力を使えない。っと、少し前まで考えていた
(なんて思ってたけど、魔力操作の力量がある程度上がれば大して気にしなくて良いんだな。勿論、油断は禁物だけど)
火が木々に移ってしまっても、本人の意志で消すことが可能なのだ。
しかしあまりにも範囲が広がり過ぎると、消せずに森林火災になる場合がある。
(火の魔力って有能だと思ってたけど、こうして森の中で戦う機会が多いと使う時に神経削るなって思い知らされるな)
実戦で使わなければ、技量は上がらない。
なので村で生活している頃から実戦で何度も使っていたが、使う度に周囲の木々に当らないように神経をすり減らしていた。
現在では技量も上がり、よっぽどな妨害が起こらない限り、的を外すことはない。
だが、無意識に気を使う部分がある。
「おっとっ!!!」
考えごとをしていると一体のモンスターがティールに向かって突っ込んで来た。
当然、その突進を避けることに成功するが、木に激突したモンスターは全く怯んでいない。
寧ろ、激突した木が破壊された。
「……なんだ、あれ」
破壊された木の部分に違和感を感じた。
ただの突進で破壊され。そんな跡ではない。
「てか、初めて見るモンスターだな」
鑑定を使って即座にモンスターのステータスを調べる。
すると、少々厄介なモンスターだということが解った。
「クラッシュシープ、ランクはD……なるほど、そのスキルのせいか」
ティールが冷静に観察している間も、クラッシュシープは殺そうと何度も突撃を繰り返す。
突進する度に木々に激突するが、クラッシュシープの額には一切傷がない。
(衝撃、か……だから折れた木々の部分が派手なのか。良いな……それ、欲しいな)
空気が一変する。
そしてティールの目が観察眼から狩人の眼に変化した。
その切り替えを肌で感じ取り、考え無しで何度も突っ込んでいたクラッシュシープの動きがようやく止まった。
「なんだ、急に大人しくなったな……まぁ、良い。とりあえずお前が持つスキル……貰うぞ」
両者ともに身体強化を使用しているが、脚力は圧倒的にティールが勝っている。
目で追うのがやっとの動きに、体が付いていく筈がない。
何度も頭を動かして狙いを定めようとするが、いつまでたっても自信を持って突っ込めない。
「ふんっ!!!」
意識の外から頭部を刃で貫かれ、そこで視界がブラックアウト。
「……随分と呆気なかったな。やっぱり鍛えるという概念を持っていないモンスターは、ランク通りの力しか持っていないか。奪取≪スナッチ≫」
クラッシュシープをあっさりと倒し終え、お目当ての衝撃を手に入れた。
「もう少し奪えれば良いんだが……訓練がてらに今日遭遇するモンスターは全て衝撃を使って倒してみるか」
噂のモンスターにはそんな嘗めた真似をするつもりはないが、新しく手に入れたスキルを早く試したいと思い、駆け足でモンスターを探し始めた。
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