不安が消えなかった
「えっと……眼球や内臓とかは売ろうと思います」
多才なティールは錬金術のスキルも習得しているが、まだブラッディ―タイガーの眼球や内臓を扱える程の技術は持っていない。
(いずれは扱ってみたいなって思うけど……まだ俺には使えない素材だ。それなら腕の立つ錬金術師に使ってもらった方が良い筈だ)
工夫すればティールの錬金術の腕が上がるまで眼球や内臓を保存する事も出来るが、売れば大金になるということもあり、売ろうと決めた。
「そうか、それじゃあ肉はどうするんだ? ちょっとぐらいは自分で食べるのもありだと思うぞ」
「いえ、他の素材は全部貰います」
「へっ?」
まさかの返答に間抜けな顔をしてしまう解体士。
だが、そんな事に気付かず前に出て亜空間の中に素材をホイホイ入れていき、あっという間に眼球と内臓以外の素材はなくなった。
「……マジかよ、坊主。お前空間収納のスキルを持ってんのかよ」
「はい、色々あって。だから問題ありません」
「そうだな……問題、ねぇんだろうな」
自身のスキルは把握出来ている。
冒険者なら当たり前。
ティールが自身の空間収納の性能を把握していない訳がないと思った解体士の親父は、それ以上なにも言わなかった。
(空間収納もスキルレベルによっては、中の物の時が経過する……それを考えれば、基本的に生の食材を中に入れない。だが、坊主は躊躇なく入れた……つまり、ある程度の期間は入れていても大丈夫って訳だ)
解体士の親父はある程度冒険者達の事情を知っている。
なので、ティールの空間収納がどれだけ有能なのかも解かる。
それは隣にいた受付嬢も同じであり、予想外の結果にポカーンとしていた。
「あの……できれば今のことはなるべく内緒にしてもらっても良いですか」
「おう、当ったり前だ!! 坊主の力は誰にも喋らん……一応上に報告はしなきゃならんけどな」
「わ、私も絶対に喋りません!!!」
「そうですか、ありがとうございます」
ギルドが冒険者から買い取った素材は、各方面に売り捌いていく。
そしてギルドマスターはその流れを当然把握しているので、冒険者がギルドに売った素材も結果的に知ることになる。
(皮でローブでも造ってもらおうか……皮鎧もありか。けど、あんまり合わなさそうなんだよな)
スピード重視の戦闘職であれば、最低限の防御を考えると皮鎧がお勧めなのだが、ティールは直感的に自分には合わないなと思った。
(でも、最低限の防御を考えると籠手は身に着けた方が良いかな……あと小盾を身に着けるのもありかもしれないな)
ティールの本気のスピードなら大抵の攻撃は躱せるが、ガードしてからカウンターで止めを刺すという攻撃方法もある。
「こちらがお売りになられた素材の金額になります」
「どうも」
金貨が五十枚近く……錬金術師に売る際にはもっと高額な値で売るのだが、それでも金貨五十枚近くも得たティールはホクホク顔になっていた。
(これで当分お金には困らないな……まっ、どうせ直ぐに外に出てモンスターを狩るんだからお金に困ることはないと思うけど)
何だかんだで戦闘を好むティール。
街の中ででじっとしていてもつまらないので結局は、街の外に出てモンスターを狩っている。
「ティールっ!!!!」
「っ! リーシア、無事だったかっ!!!???」
ギルドの入り口からティールが目覚めたという報告を聞いたリーシアが勢い良く扉を開け、そのままティールに突っ込んだ。
そして……油断していたティールは支えきれずに倒れてしまった。
「り、リーシア。俺は本当にもう大丈夫だからさ、な」
「……それでも、本当に心配したのよ」
ティールを一人残して街に戻った時、立ったまま気絶したティールを見た時……今こうして回復した姿を確認するまで不安が心の中から消えなかった。
「ごめんな、酷い言葉をぶつけて……」
「それはもう良い……生きててくれて、本当に良かった」
「僕も、心からそう思うよ」
ひょこっとエリックが現れ、転んだティールに手を貸す。
「一人残って強敵に立ち向かった。それを聞いてティールらしいなと思ったけど……こうして生きている姿を見るまで、もしかしたらという思いが消えなかった。後遺症とかもないんだよね」
「あぁ、勿論だ。これからも冒険者として活動出来る。特には問題無いよ」
「そうか……本当に、良かった。ティール、僕の仲間を命懸けで守ってくれて、心から感謝するよ。本当に……ありがとう」
腰を九十度曲げ、深くティールに礼を伝えた。
普段のティールなら直ぐに頭を上げてくれと言いそうだが、今回はその礼をしっかりと受けった。
「……その気持ち、確かに受け取った」
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