意地でも認めたくない
「あらよ、ほいほいほいっと」
バーバスが吹き飛んだのを確認したティールはゴブリンの上位種の足元を狙って石ころを投げ続けた。
丁度当たるか当たらないかの場所に着弾したので、上位種にはダメージを与えていない。
しかし上位種の意識は今にも自分の脚に直撃しそうな投擲に意識が向いていた。
「まだまだ経験が浅いな」
少々特殊な上位種であっても、ティールの経験数には敵わない。
「ハッ!!!」
ティールが上位種の意識を自分に引き付けている間に身体強化を使ったエリックが背後に回りこみ、一振りで上位種の首を刈り取った。
「お見事」
「ティールの援護あってこそだよ」
エリックの眼から視てもバーバスが戦っていた上位種のレベルは高かった。
仮に一対一で戦えば負けるとは思わないが、ここまであっさり勝てるとも思えない。
完全にゴブリンたちがこちらにやって来る流れが止まり、ルーキー達の間に安堵感が生まれる。
だが、当然ながら一人だけ納得のいっていない男がいた。
「おい、てめぇら……なに勝手に俺の獲物を奪ってんだよ!!!!」
「うるせぇよバカ。お前の攻撃が掠りもせず、挙句の果てに無様にぶっ飛ばされたからしょうがなく俺とエリックが上位種の相手をしてやったんだろ。負けたくせいつまでも調子に乗ってんじゃねぇよ」
「黙れ!! 俺は……俺はまだ負けてねぇんだよ!!!!」
バーバスとしてはあの上位種は絶対に自分の手で倒すと決めた獲物。
戦う直前に周囲にも手を出すなと伝えた。だから最後まで自分が戦い続けるのは当然だと主張する。
ティールもバーバスはこの戦いに手を出すなと言ったのは覚えている。
だが、ルーキー達を束ねる立場をガレッジから任されたティールには関係の無い話だ。
寧ろ短時間というそんな我儘を許した自分を褒めろと言いたかった。
「実戦じゃ負けってのは死を意味する……お前はこんな大したことない戦場で死にたかったのか? いや、そもそも死にたいと思ってる奴なんていないと思うけどさ」
ルーキー達にとっては初めて大量のゴブリンと戦う実戦だった。
だが、普段と違うのは自分達側も同じで一緒に戦う仲間の数も多い。
それを考えれば今回の戦いは死者が出るような厳しい戦いではなかった。
しかし一対一の戦いともなれば、万が一の可能性はある。
そして今の戦いで万が一の可能性が起きかけた。
ティールは確かにバーバスのことを好意的に思っていない。
だが、ガレッジからルーキー達のリーダーに任命されたからには死なせないことが最優先だと決めている。
その結果、誰も死ぬことなく……重傷すら負うことなく戦いを終えることが出来た。
「つか、もう一度言うけどお前は上位種に二回もぶっ飛ばされただろ。それは十分に負けに値する。俺やエリックが戦いに割って入ったのは正しい判断だ」
「ッ……黙れ、黙れよ!!! 俺はっ……俺はまだ負けてなかったんだ! 確かに吹き飛ばされはした。でも体はまだ動かせた……負けてなかったんだよ!!!」
「……はぁーーーーー。分かった、お前がまだ負けてなかったってのは認めてやるよ。でも、お前はあの上位種に勝てなかっただろ。それは変えられない事実だ」
負けていないが、ティールとエリックが手を出すまでにバーバスは上位種に勝てなかった。
それはティールの言う通り変えられない事実だ。
事実なのだが……そんな言葉でバーバスが納得する筈が無い。
「違う!! あのまま戦っていたら勝てたんだッ!!!!」
自信満々に、荒々しく声を上げるバーバスを見るティールの眼がどんどん冷たくなる。
その冷たさに傍にいるエリックは思わず震えてしまう。
「お前、あそこまで戦って……良い一発を食らってまだ実力差が理解出来ないのか?」
総合的な能力を考えれば上位種とバーバスに大きな差はないかもしれない。
だが、経験数と戦闘スタイルが勝敗を分けていた。
十回戦えばハ・九回は上位種が勝つ。
バーバスが実戦で使える戦い方を知らなかったという要因もあるが、勝てないのは間違いない。
「自分と上位種との差が理解出来てないんだったら、冒険者なんて辞めちまえ。お前みたいな馬鹿はどうせ長く生きられないからさ」
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