ファイターかアサシン?

「……そろそろ終わりそうだな」


聴力を強化し、先輩達とゴブリンジェネラルとの戦いを調べてみるとモンスターの声が確実に減っていた。

そして自分達の方向に流れて来るゴブリンの数も徐々に減っており、明らかに数ではオーバーキルとなっている。


今回の戦いで全く怪我がした者がゼロという訳ではないが、死者は出ていない。

だが、先輩達やルーキー達も緊張が切れない状態での戦いでスタミナが減っており、肩で息をしている者も多い。


そんな中でティールだけが汗一つ流さずに平然としていた。


(ガレッジさん達は俺が応援に行かなくても残りの一体を倒せる。こっちも皆疲れてはいるが、数的有利で負けることはない)


今回の討伐は自分達の勝利だと疑いようがなかった。


ただ、ティールの気が少々緩んでいた時に一匹のゴブリンの上位種がバーバスに襲い掛かった。


「グハッ!!??」


一体の接近に全く気が付かなかったバーバスは蹴りをモロに食らってしまい、数メートルほど吹っ飛んだ。


「ッ! なんなんだ、あいつは?」


気が緩んでおり、周囲への警戒が疎かになっていたのは認める。

しかしティールは一対のゴブリンの登場に気が付くのが完全に遅れていた。


(バーバスは蹴りで吹っ飛ばしたという事は……ファイターか? でもファイターってあんなに気配を消すのが上手かったか??)


ファイターは上位種の中でも体術での戦闘に優れた個体。

それ故に素手での威力は他の上位種よりも上。


しかし気配を消す能力に関しては珍しい個体であるゴブリンアサシンの方が遥かに上だ。


(ファイターとアサシン、両方の特性を持つ個体ってところか。俺かエリックが相手をした方が良いかもな)


エリックに視線を動かし、相談しようとした瞬間に吹き飛ばされたはずのバーバスがリベンジしようと駆け出す。


「お前ら、手を出すんじゃねぇぞ!!!!」


自分を吹き飛ばしたゴブリンの上位種は絶対に自分が倒す。

それを周囲に伝えるように声を荒げ、果敢に挑む。


「ティール、どうするべきだと思う」


「……この戦いであいつの中に溜まっているストレスが発散出来るなら良いんじゃないか? 死ぬ一歩手前まで我慢して観ていよう」


勿論ティールにバーバスを見殺しにする気は無い。

右手には丁度良い大きさの石を持っており、いつでも投擲を行えるように準備している。


バーバスと上位種の戦いが始まってから三十秒弱、バーバスは最初の奇襲によるクリティカルヒット以外は食らっていない。

だが、まだ一撃も返せていないという現状。


バーバスは確かにティールより弱いが、今回の戦いでゴブリンウォーリアーやその他の上位種とも互角に戦えていた。

決してジェネラル以上の上位種に後れを取るほど弱くはない。


しかしそんなバーバスが一撃も加えられていない。それはティールの中では少々驚きの出来事だった。


(へぇ~……最初の奇襲が奇跡的に決まったって訳じゃないのか。お互いに身体強化のスキルを使ってるのに決定打は今のところなし。てか、バーバスの攻撃は冷静に見切られ捌かれている)


バーバスがどれだけ無様な戦いをしようがどうでも良いと考えているが、決して体は大きくない上位種がバーバスを軽くあしらっている。

その光景に面白さを感じたティールは無意識に口端を吊り上げていた。


「……ティール、君に対して反抗的な態度を取っているけど、今は一応仲間だよ。そういった表情は見せない方が良いと思うよ」


「おっと、すまんすまん。でもさ……あの上位種凄くないか」


「確かに思っていたよりも凄いね。実戦経験が豊富なのかな」


エリックもバーバスが戦っている上位種の強さは他とは違うと感じていた。

身体能力ではエリックやティールの方が上だ。


だが、バーバスを倒すにはそこまで高い身体能力がなくても実戦経験が多ければ次にどのような攻撃来るかを予測すれば、冷静に対処出来る。


「チッ!!! 死にやがれッ!!!!!!」


(ほぅ、殻を破ったか)


バーバスの刃には不器用な形ではあるが魔力が纏われていた。

これが決まれば流石に一撃で絶命する。


だが、器用に上位種は半身になって大振りを躱し、見事に攻撃後の隙を突いて左の正拳をバーバスの腹に叩きこんだ。


「ガ、ハッ……」


その一撃で胸骨に罅が入り、再び数メートルほど吹き飛ばされてしまった。


「時間だな。エリック、ラストよろしく」


「分った。任せてくれ」

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