ベテラン組も解っている
「これ、換金お願いします」
「わ、分かりました。少々お待ちくださいませ」
ラージアスキャットやその他のモンスターの素材と魔石を渡された受付嬢は少々驚きながらもスムーズに素材の鑑定を行い、換金の準備を進めていく。
「よぅ、お前さんがティールだな」
「そうですけど……誰ですか?」
換金を待っているティールに一人の冒険者が声を掛ける。
その男の身長は二メートル近くあり、体格もがっしりとしている。
そして背中にはバースと同じく大剣を背負っている、典型的なアタッカーだということが解る。
「今度ゴブリンの群れを討伐する時にリーダーを務めるガレッジだ。ランクはCだ、よろしくな」
「どうも、よろしくお願いします」
まともな人間だと思ったティールは礼儀として頭を下げ、握手を交わす。
「盗み見するつもりはなかったんだが、出してた素材の中にラージアスキャットの素材が混ざってたよな」
「はい。多分……普通のより大きかったです。体長は一点五倍ほどあったかと」
「……マジでか?」
「マジです」
ガレッジの問いにその通りだと答える。
事実として、ティールが戦ったラージアスキャットは他の同種と比べて確かに体が大きかった。
その分身体能力も高く、他のラージアスキャットよりも実力が高い。
ただ、そんなモンスターと戦ったであろうティールには傷らしい傷は無かった。
勿論戦いの最中に負った傷はポーションを飲めば治る。
しかしガレッジの眼はティールが全くの無傷でラージアスキャットを倒したであろうと見抜いていた。
(ある程度強いんだろうとは思っていたが、ソロでラージアスキャットを倒すとはなぁ……もはや実力的には完全にルーキーではないな)
ガレッジはティールとバーバスの試合を生で観ており、ティールがルーキー離れした実力を持っているのは知っていた。
だが、ラージアスキャットを一人で倒せるほどの実力を持っているとは思っていなかった。
ティールが抱いた感想と同じく、Cランクのガレッジもラージアスキャットを相手にするのは厄介で面倒だと感じる。
「そうか……なら、ガキたちのお守りを頼んでも良いか?」
「お守り……それって、Dランク以上の冒険者達がするものじゃないんですか」
その通りだ。今回の討伐ではティール達ルーキー組も戦うが、万が一を考えてベテラン組がルーキー達を守ると決めている。
ただ、いるかもしれないジェネラルや上位種を倒すのが最優先。
それを考えるとルーキー達から目が離れてしまう瞬間があるかもしれない。
「勿論、基本的にはそうだ。何かあったら直ぐに駆け付けられる距離で戦っているだろう。でも、万が一という可能性があるだろ」
「万が一といいますか……俺はバースが暴走しないかどうかが心配です」
「……ぶっ、はっはっは!!! 子供のくせによく心配要素を理解してるんだな」
「ということは、ガレッジさん達もバースが一人で突っ走ってなにかやらかすかもしれないと思っているんですね」
「そりゃ大勢の前でお前さんにボロカスに負けたとなれば、名誉挽回の為に活躍しようとお前より活躍しようと思うのが当然だろ」
ガレッジの考えはまさにその通りだった。
バーバスの目標は今回の討伐で活躍する。
ただ……それだけでは終わらず、ティールよりも上の功績を残す。
それがバーバスの最終的な目標だ。
なのでバーバスがいつもならば満足するような討伐数であっても、ティールがそれを上回っていれば更にゴブリン達を倒そうとする。
(本当に面倒な奴だな。いっそ討伐当日に風でも引いて不参加になれば良いのに)
良くない事を願っているとは解っているが、エリックとリーシアの無事を考えると本気でバーバスは今回の討伐に参加して欲しくないと思ってしまう。
「そんな暴走しそうな奴らいるんだ。俺達ベテランの手が届く前になんとか出来る奴がいるなら、そいつを頼ろうとするのは当たり前だろ」
「そうかもしれませんね。それなら、もしバーバスが暴走しようとしたときは気絶させても良いですか」
「お、おぉう。それは構わねぇが……それはそれで邪魔じゃねぇか?」
「身勝手にウロチョロされるよりは動かずに止まっている方が安心です」
「そうか……まっ、お前さんがそう考えてるなら、別に良いぞ」
「そうですか、有難うございます。それでは」
換金が既に完了している受付嬢の元に戻り、金を受け取ったティールはギルドから出て行った。
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