不安が消える
ティールがギルドから出て行った後、ガレッジは一人椅子に腰を下ろして先程まで話していた少年のことを思い出していた。
(偶に飛び抜けたルーキーが出てくるのは解っていたが……なんなんだありゃ)
ガレッジは相手の力量がある程度解かるCランクの冒険者。
決して自信過剰なポンコツ冒険者ではない。
だからこそ、ティールがルーキーにしては異常なまでに強いことが解った。
(ここ最近ではエリックとリーシアが飛び抜けて強いと思っていたが、まさかあんな怪物が現れるとはなぁ……もしかしてだが、今度の討伐に俺らベテラン組はいらない、か?)
そんな事はない……ないが、実際のところティール一人でも討伐出来てしまう可能性は十分にある。
問題は数が多いゴブリンがティールの手で殺される前に逃げてしまうかもしれないという事。
今回はそこそこゴブリンの数が多く、ジェネラルがいるかもしれないという理由でベテラン組が参加している。
ゴブリンといえど、嘗めてかかるとルーキーは痛い目に合う。
なので群れのボスであるジェネラルを倒し、それで終わりという訳にはいかない。
圧倒的な手札の数を持つティールでも、ばらけてしまったゴブリン達を全員殺すのは不可能に近い。
(模擬戦を見てた限り、あれはセンスや才能だけの動きじゃない……もしかしたら子供の頃から英才教育を受けていたエリートか?)
その考えはあながち間違ってはいない。
ただ、実際は七割方ティールの努力と実戦の数。そして奪取≪スナッチ≫の力のお陰だ。
子供の頃にそこそこ強い者から指導を受けていたお陰で、ある程度の強さを持ったルーキーはちょいちょい現れる。
それでも、バーバスとの模擬戦の時に見せた余裕の表情……確かな実戦を経験していなければあそこまでバーバスの自信を潰すことは出来ない。
(まぁ……なにはともあれ、ルーキー達のことはあいつに任せてれば大丈夫だろうし、正直安心できる部分はあるな)
ベテランがルーキーを率いての討伐。
冒険者は基本的に自己責任が鉄則だ。
だが、ギルドとしてはこれから英雄になるかもしれないルーキー達は出来る限り死ぬことなく、順調に孵化して欲しい。
そう……自分達の利益の為に。
なので、一度の討伐で多くのルーキーが死んでしまったら現場監督の注意不足という形に思われ、ギルドからの評価が下がる場合もある。
(とはいえ、俺達の仕事はきっちりと遂行しないとな)
ゴブリンジェネラル、その他の上位種の殲滅。
それがベテラン達が今回の討伐に参加する理由だ。
「ははっ……ここまで気分が楽になると、今日は美味い飯が食べられそうだな」
ルーキーの中にバーバスという問題児に近い者がいて不安だった気持ちがティールの頼もしさを感じ、いつのまに消えていた。
そして翌日……いよいよ討伐の日が訪れた。
「ふぅーーー……よく眠れたな」
スッキリとした目覚めを感じながらも顔を洗い、朝食を食べてから直ぐに待ち合わせの場所へと向かった。
「おはよう、ティール」
「エリックとリーシアか、おはよう」
「おはようティール!! 今日はあいつらをジャンジャンぶっ潰すわよ」
エリックはいつも通りの態度だが、リーシアは殺る気満々な状態だった。
「気合が入ってるな。でも、うっかり木を燃やして火事にしないでくれよ」
「勿論それは解ってるわよ。ちゃんと狙って丸焼きにしてやるに決まってるでしょ!!」
「そ、そうか……まっ、あんまり前に出過ぎないようにな」
リーシアは前衛の本職には敵わないが、ある程度長剣を使って戦える。
なので魔力量がゼロに近づいてもある程度は戦えるが、ティールとしてはそういった状況になってもあまり前には出て欲しくない。
「それは解ってるわよ。後衛なんだから必要以上前に出はしない」
「そうか? なんか今の勢いだと魔力がゼロに近くなったら杖でゴブリンを殺しに行きそうなんだが」
「はっはっは、僕もちょっとそう思えるね。今日のリーシアはいつもより張り切ってるし」
「だって群れの討伐よ。そりゃ気合が入るでしょ」
モンスターの群れの討伐に参加し、功績を上げて生き残る。
それは冒険者として立派なステータスとなる。
なので今日の討伐に参加するルーキー達は皆リーシアと同じく気合が入っていた。
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