切り替えていこう
ゾルとの食事が終わり、ティールは一人で自身が泊っている宿へと戻る。
(そりゃそうだよな。幼馴染だったら自然とそういう関係になるもの……結局のところ、他人が入る隙間なんてないんだよな)
自分の中にあるリーシアへの気持ちを消すようにティールは自身に言い聞かせる。
(まだ付き合っていない、ゴールに辿り着くまで寄り道はするのかもしれないけど、最終的に同じ道を歩むわけだ。俺にどうこう出来る場面は無い)
実際のところティールが割って入る隙間は無いに等しい。
よっぽど好シチュエーションに突入しない限り、チャンスすら生まれない。
「はぁ~~~……恋って面倒だな」
星が多く見える綺麗な夜空を見上げながら大きくため息をつく。
今よりも幼い頃に感じた苦みを再び思い出す。
(……まだなにもしていないのに諦めろ、そう言われてる感じがするのはやっぱり厳しいな。やっぱり恋愛は強さだけじゃない……ってことだよな。当たり前だけど、現実として突き付けられると心にくるものがある)
それはティールがただ諦めているだけではないのか。
諦めるには早過ぎる、もっとリーシアと関ってアタックして……それでも本当に無理なのかどうかを確かめるべきじゃないのか。
第三者ならそう思うかもしれない。
世の中にはそういった強い気持ち心に刻み、失敗を恐れずアタックして恋人を手に入れた男もいる。
しかしその方法がティールに適しているのか?
とりあえずメンタル面では全く適していない。
はっきり言ってティールの恋愛面にメンタルは豆腐、ガラスのハートという言葉が相応しい。
戦闘面に関してはある程度問題無いのだが、恋愛に関して……もっと単純に言えば、人間関係に関しては自分の感情を一歩引かせるところがある。
どうでも良い相手に関しては強気な態度だが、今回一応ライバルになるかもしれない対象であるエリックはどうでも良いと思えない。
そして嫌な奴では無く、寧ろ良い奴とすら思っている。
(リーシアの前だと猫被って良い顔してるけど、他の男の前だと化けの皮が剥がれる適な奴なら俺もがっつり行けるんだけど……おそらくそんな奴じゃないんだよな)
まだエリックと一度も二人っきりで話したことは無いが、それでも話の中で表情に出る笑顔などに嘘は感じない。
「……まっ、とりあえず友達でいられたらそれで十分か」
まだティールの冒険者人生は始まったばかり、直ぐにそういう人をみつける必要は無い。
焦らず、多くの人と関りながらそういう人をみつければ良い。
少なくとも師である二人はそう思っている。
ジンはもっと男の本能を自由にして遊ぶべきだと考えていた。
その日の翌日、ティールは先日同じく討伐依頼を受ける。
依頼受理の担当はティールが連日で討伐依頼を受けていると知っており、一旦休んだ方が良いのではと伝える。
しかしティールは休んだところで何かする事も無いので、特に問題無いと受付嬢に伝える。
ルーキーは確かにお金が無い。それでも冒険者は体を張って金を稼ぐ。
つまり肉体、その他魔力等が資本だ。
休日を挟むことも重要なことだ……しかしスタミナが通常のルーキーと比べて多いティールにとって、連日で討伐依頼を受ける事など、なんの苦でも無い。
(子供の頃から結構連日で森の中入ってモンスター狩ってた訳だし……ぶっちゃけどうってことないんだよな)
ティールが今回受けた依頼はバインドスネーク三体の討伐。
ランクはFであり、通常の蛇と比べれば確かに体は大きい。そしてスキル、拘束は捕まってっしまうと少々厄介であり、力が無い者であれば自力で拘束から脱出出来ないかもしれない。
ただ、正確に遠距離から攻撃出来るティールにその拘束力は意味を為さない。
(さて、今日もしっかり仕事しないとな)
グレーグリズリーをうっかり倒してしまったのは予定に無い討伐だったが、受けている依頼に関してはルーキーが受理されていてもおかしく無い内容ばかり。
ただ、連日で依頼を受け続けるのはルーキーらしからぬ行為であり、職員達は徐々にティールに注目し始めていた。
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