第10話

 青年は妻を貰った後、数度に渡り航海を繰り返していた。そして更なる財をなした。その年の秋。いつものようにフェルムスの港に向かった。しかし胡椒がまったく売れなかった。

 胡椒の価格が驚くほど暴落している。それに気づいた彼はその原因を探る事にした。

 探るまでもなかった。

 街のど真ん中に珍妙な店が堂々と開いていたからだ。


『異世界コンビニ』


 その店にはそのような看板がかけられていた。

 彼はその店内に入ってみた。

 正面の壁はすべてガラスでできていた。扉もガラス製。彼は様々な国を巡り、色んな店を見てきたが、そのどれとも似つかぬものであった。

 入り口の扉にはノブも取ってもなかった。近づくだけで扉が開いた。


「いらっさいませー」


 店員は獣人の娘であった。

 この時点で彼は把握した。なるほど。この店の店主は中々利巧な人物らしい。フェルムスでは獣人は虐げられていると聞くが店主は能力を見て店員を雇っているようだ。店の奥には食べ物が陳列されている。服の中に隠して万引きしようとすれば鋭い嗅覚で嗅ぎつけて盗むのを防げるという算段である。

 店の入り口付近に小さなガラス瓶が置かれている。


「これはいくらだ?」


「金貨一枚くらいじゃないですかねぇ?」


 店の奥にはガラス窓に入った瓶が多く並んでいる。酒類などの飲み物のようだ。


「これはいくらだ?」


「どうか一枚くらいじゃないですかねえ?」


 なるほど。手前の小さい瓶は魔法薬。奥の大きな瓶は安酒。彼はだいたい理解した。化粧品や砂糖をふんだんに使った菓子類なども置かれているようだ。そしてコショウも。そのどれも破格の安値で売られている。

 ガラス窓に近い位置に色刷りの書物が並べられている。一冊手に取った。


「東洋魔術大全か・・・」


 パラパラとめくる。なるほど。深くはない。だが簡易な儀式のやり方などが記載されているようだ。知り合いの仙道が見たら仙人の秘術をばら撒くなど何たることか卒倒する事だろう。


「酒瓶の棚も不自然に涼しかった。寒くする仙道の術。この建物を造ったのは東洋か西洋。いずれかの仙人か」


 彼はだいたいそのように理解した。

 そして店を一周して。

 胡椒や砂糖以外の物を。この店で売っていない物を売ればいいと考えた。

 

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