第6話

 彼はネディートに一年程滞在した。ネディートは武唐の民とは話す言葉が違うので彼はそれを学ぶ必要があった。その間彼はネディートにあるフェルムス教の寺院で使用人として働きながら暮らす事になった。

 さらに言えば旅の途中でフェルムスの神父より彼らの言葉を学んでいた為、彼は武唐とネディートとフェルムスの言葉を自由に操れるようになっていた。既にネディートの交易所に出入りしては武唐から来た商人とフェルムスの商人の通訳を行っていた。というより既に商売の真似事を初めており、彼の才覚に眼をつけた幾つかの商団から誘いを受け始めていた。

 フェルムスの神父が商人の隊商と共に本国に戻るというので彼は神父と共についていく事にした。隊商は馬ではなくラクダという背中にコブのある奇妙な動物を荷役馬として用いていた。左右に揺れるように動き、乗り心地はすごぶる悪かった。

 一ヶ月も進まないうちにドラキアの領内にさしかかった。使う言葉。肌や髪の毛からしてもうフェルムスの民のようだった。


「悪いことは言わん。今のうちに引き返せ」


 ここの国境の門番もまた。武唐の長城で会った聖人であった。


「フェルムスは巨大な帝国であった。しかし皇帝が亡くなった。寿命である。この事事態には何の疑い用もない。だが、次の皇帝は法王によって戴冠式を執り行わねばならない。それが決まりである。間の悪いことにその法王もまた亡くなってしまっていたのだ」


「では次の皇帝はどうするのですか?」


 彼は訪ねる。武唐の異教徒は知らないだろうから、兵士はちょっと得意気になりながらフェルムスの信徒であれば誰しもが知ってる事を答えてやった。


「皇帝の前に次の相応を選ばねばならない。しかし正教派に対し、最近は太陽の周りを大地が廻っているだのと世迷い言を申す太陽派が力をつけてきてな。どうも連中は天気を操る魔術を使うようなのだお陰で雨が欲しいと言えば振らしてくれると農民達には評判でな」


「オーノー。法王は亡くなられてしまったのですか。そうなのですか。それは残念です。しかし私はこの報告書を法王庁に届け無くてはなりません」


 フェルムスの神父はそう言った。


「そうか。ならば通れ。お前達はどうする?」


 兵士はさらに訪ねる。


「どうします?」


 このまま進んでも商売は難しそうだ。そう考えた彼は隊商にいるネディートの商人に意見を求めた。


「ここから南西に向かうとコプトの王国があります。一見貧しいように見えますがその実驚く程豊かな国です。港もありますからフェルムスの商人も出入りしてますよ」


「ではそちらへと向かうとしましょう」


 彼はフェルムスの神父と別れ、コプトの街へと向かった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る