ストーカー
「ジュース、これでいいか?」
近くの自動販売機から
俺はベンチに座り、
約一か月に渡り俺を苦しめ続けたストーカーの正体は、
着信音が小学生たちの間から
俺は
「で、どうして俺のストーカーなんかしたんだ?」
黒髪の美しい少女がちらりと
俺は出来るだけリラックスするよう
「一目惚れ、だったんです」
「えっ」
いきなりの告白に、思わず
「それは、おかしいんじゃないか?」
「いえ、確実に一目惚れなんです。確かなことなんです」
日の落ちかけた公園内に、俺と少女以外の人影はない。実質、
「お兄さんは覚えてないかもしれませんが、昔、駅で女性を助けたことがあるはずです」
少女は
「その時偶然、私はお兄さんの人助けを見て、かっこいいなって思ったんです。それから毎日毎日、
少女はジュースの容器をぎゅっと
「でもそれだけじゃ足りなくなって。もっとお兄さんを知りたくて、それで」
「ストーカー行為に走った、と」
俺が話をまとめると、少女は力なく
告白が終わってしまったので、俺は過去の被害について質問してみた。
「俺の電話番号はいつ知ったんだ?」
「前にアルバイトの面接予約を駅でしていたのを、盗み聞きしてました」
思い出した。俺は払いのいいバイトを見つけ気が
「どうやって俺のアパートの部屋を割り出したんだ?」
「お兄さんの後を付けた後、夜に電話にたくさんかけました。音が鳴り続けている部屋を探したから、お兄さんの部屋はすぐ分かりました」
たくさん、というのは九十回以上コールが届いた最初期の日だろう。あの時からストーカー行為は本格化してしまった。
「あと、郵便受け。どうして毎週金曜にだけ張り紙を張ったんだ?」
「金曜は学校が早くに終わるから、帰ったら急いで、昨日の夜に作った手紙を張ったんです」
あれは手紙のつもりだったのか。黒いインクの
「SNSのアカウントはどうやって知ったんだ?……いや、まさか」
「はい。電車でスマホを使っているのを、
不注意すぎた。電車ではプライバシーに配慮して、座席に
「……ごめんなさい。まさか、警察の方に相談してるとは思いませんでした」
少女は
だけど、だからこそ俺は
「取りあえず、今から君の親に連絡するよ。自分のこれまでしてきた行動は迷惑だったって、分かってるんだよね?」
「はい……」
「だったら、これ以上の追究はしない。その代わり、今後君に好きな人が出来た時に、今日まで俺に
「はい」
結局、俺は少女に
俺は少女のか
○○
「すみません! うちの子がご迷惑をおかけしていたようで」
少女の携帯から保護者に連絡をかけて数分後、公園に
子持ちとは思えない見た目の若さ、我が子共々
「ほら、貴方も
「いえいえ! この子も十分に反省しているので、もう大丈夫です」
それからしばらく、俺は少女の母親と世間話をした。俺の
「それじゃあ、日も落ちてきましたので。この
母親は深々と頭を下げる。少女も
それから母親はごそごそと財布から何かを引き抜き、俺に手渡す。夜の暗闇に目を
「よろしければ今度、私のカフェにお
せめてもの
「さぁ、帰りましょう」
少女は
そして一度だけこちらへ振り返り、二人は俺に向けて軽く会釈をする。それからは迎えの車に続いているであろう道を、手をつなぎながら歩いていった。
かくして、俺の一か月に渡るストーカー事件は、幕を閉じたのだった。
○○
日は
「ママ、お腹
助手席に座った少女が、“ママ”に話しかける。美しい黒髪をした小学生程度の少女。
「シチューを作ってあるわ。家まで我慢ね」
運転席の“ママ”が返答する。人妻とは判別できかねるほど若々しい見た目の彼女は、娘と同じかそれ以上の、
二人を乗せた乗用車が、赤信号で停車する。しばしの沈黙。
「ねぇ」
先に沈黙を
「あの人の情報、ちゃんと入手できた?」
「うん」
少女は今日一番のはにかみ顔を浮かべつつ、スマホで撮影した青年の画像数十枚を見せる。
母親の顔は画像群を
「はあぁ……やはり、ステキ……♡」
「駅で助けられた時と同じ……いえ、あの時以上に
食い入るように画面を見つめる母に、娘は素直な疑問をぶつける。
「どう? 今度のパパとは、仲良くできそう?」
「もちろぉん♡ 彼こそ、私と赤い糸で
「あっ。ママ、信号青になったよ」
娘の一声で現実に引き戻された母親は、再びアクセルを踏み込む。だがその
「うふふ……♡」
二人を乗せた自動車は、夜の街へと走り去った。
〈了〉
ストーカー 私誰 待文 @Tsugomori3-0
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