第2話 男の前日譚
水が弾けた。
空から大粒の涙のような水滴が落下してくる。
それに打たれながら暗闇を彷徨っていた。
俺の意識は朦朧としていて貧血とかの類ではない。
全身に怪我を負っておりまともに歩けず小鹿状態。
どれほどの距離を歩み進めただろうか。
限界がすぐ手前まで迫っており今にも地べたに倒れ込みそうだ。
血と水滴が混じった嘔吐を催しかねない怪奇的な視界に入り込む人陰。
「大丈夫かぁ?いま助けたる!」
その声を聞いた途端、所持していた電光花の電力が途切れ意識が飛んだ。
真っ暗な世界に佇む男が眼前に広がる光を目指して歩みを進める。ひたすら進んでも進んでも光沢ある淡い輝きは衰える気配は無い。不思議そうに眺めてると、
「っは?!」
そこで目が覚めた。夢だったらしい。
てかここはどこだ?見渡しても見覚えのない部屋だ。
ガチャ。ドアを開く音が聞こえ来客が訪問。
俺は来客の人物と顔を数秒見つめ合いその後。
「ぎゃー!!」
「っん?!びっくりした…心臓に悪いぞ…」
初対面の人物に罵声を浴びせられたのは初めてだ。
「あーもっ!起きてるなら言いなさいよね!」
「おいおい…それは無理があるだろ…」
理不尽なクレームを受けたがその人物をマジマジと見てみると美しい。ひらひらの青髪ロングで整った顔立ちをした女性だ。可憐な立ち振る舞い…いや撤回しよう。この女は捻くれ者だ。
「その手に持ってるのはなんだ?」
「え?あっ…これはその…お掃除よ!忘れてたわ!お掃除をしにきたのよ!」
掃除?女の手元には雑巾の入ったバケツを持っていた。
疑問を感じながら周りを見渡しても目に留まるほど汚れが目立った箇所はない。強いて言えばさっきから気にしてなかったがどうも俺は服にシミがつくほど汗をかいてしまったみたいだ。そうか。いま合点した。俺の体を拭きにきてくれたのか。それを掃除と言うなんて上品なお姫様なのか?
「なんで俺はこんなに汗をかいてるんだ?」
「あなた悪夢にうなされてるみたいだったわ」
「悪夢?」
刹那。
ドドドドッ。ドア外の廊下から駆け走る音が聞こえる。驚きの表情をしながら視線をドアの方へ向ける
「おーい!悲鳴が聞こえたけど大丈夫かぁ〜?」
凄まじい勢いで来客した人物はまたもや女性だった。
青髪ロングの女はため息をついていた。
「ママ、土足厳禁って言ったわよね?」
「ごめんごめん!興奮した勢いでついつい…それよりも!少年、やっと起きたかぁ!」
尋ねてきたのは笑顔の絶えない陽気な振る舞いをしてる黒髪ロングの女だ。
そして俺は喉奥に引っ込めていた言葉を発することにした。
「あの…ここはどこですか?お嬢さん達は何者ですか?」
「良い質問だなぁ〜!隣にいるのがルミナス!そして私は君の救世主ことママだよ」
「ママ?!」
俺はこれから壮大な茨の道を進むことを知る由もなかった。
ロニカが始める物語 小村井 @kasup
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