4-3

 僕たちはモール内にある手頃なカフェに入店した。休日ということもあり店内は混んでいたが、4人で座れる席が空いていたので僕たちはそこに座ることにした。

 僕と薫さんがアイスコーヒー。舞花がアイスココア。まゆりちゃんがオレンジジュースを注文した。

 注文した飲み物が届いたのでみんなでそれを飲みながら先ほどのまゆりちゃんの迷子の件についての話になった。

「それにしても朋己の推理力はすごいな。すぐにまゆりが私の妹だと気づくなんて」

「特徴を聞いてもしかしたらと思っただけだよ。名前を聞いたらすぐにわかることだしね」

 実際には名前を聞けばすぐに可能性に気づけることだ。推理というほどのことではない。

「それでもすごいことだよ。舞花。朋己は昔からこうなのか?」

「はい! 探しものとかも得意だし。でも一緒にミステリーやサスペンス見てる時に、犯人がすぐにわかっちゃって答えを言っちゃうのはやめてほしいですけどね!」

 それは僕の悪い癖だ。舞花も僕と同じでミステリーが好きなのでよく一緒に観るのだが、犯人がわかったときはつい口に出してしまい、よく舞花に怒られている。

「それはダメだよ。朋己」

「だめだよ! ともみ!」

「ご、ごめん」

 これに関しては謝るしかない。僕は気まずさを誤魔化すためにアイスコーヒーをごくりと飲んだ。

「そういえば薫さん。お兄ちゃんは学校でどんな感じなんですか?」

「ふふ。お兄ちゃんが心配かい? そうだな。私もよく話すようになったのは最近で、正直最初は暗い子なのかと思っていたが冗談にも付き合うし、いじられるとツッコミをするし、なかなか面白い子だと思うぞ。後、朋己の一番仲のいい友達に聞いたし私も見たことがあるんだが、謎解きをするときは目が輝くんだ」

 謎解きをしているときは楽しいとは思うこともあるが目が輝いている自覚はなかった。というか妹に学校での様子を話されるのは恥ずかしい。

「そうなんですね。ちゃんとお友達いるみたいで安心しました」

 舞花はそう言ってにっこりと微笑んだ。妹にこんな心配される兄って……。

「まゆりもともみのおともだち! まいかおねえちゃんも!」

 まゆりちゃんは屈託のない笑顔でそう言った。その笑顔を少し眩しく感じたが、僕はしっかりとまゆりちゃんの目を見て自分のできる限りの笑顔で返事をした。

「うん。まゆりちゃんと僕は友達。これからよろしくね」

「私もね。まゆりちゃん」

 僕たちがそう言うとまゆりちゃんは満足そうな顔をした。そしてその隣で薫さんが優しい目でその様子を見ていた。


僕たちはしばらく会話をした後、お店の前で別れる。

「じゃあ、今日は本当にありがとう。まゆりも君たちに懐いているしまた遊んであげてくれ」

「もちろんだよ。こちらこそ今日はありがとう」

「ありがとうございました!」

 舞花はそう言って元気よく頭を下げた。

「ともみー! まいかおねえちゃん! またね」

「うん。またね」

 僕たちがしゃがんでまゆりちゃんの頭を撫でると、まゆりちゃんは嬉しそうに顔をほころばせた。

「じゃあ。朋己。週明け教室でな。劇の練習頑張ろう」

「う、うん。頑張ろう」

 忘れていたわけではないが、思い出して気分が少し重くなる。

 全くやれる気はしないが頑張らなくては。


「今日は楽しかったね。お兄ちゃん」

「うん。僕もそう思うよ。まさか迷子に声かけたらそれがクラスメイトの妹なんてね」

 買い物に行ったらそこで迷子を見つけて、その子がクラスメイトでしかも学校祭の劇で同じく主役を務める子だなんてそんな偶然はなかなかない。

「そういえばお兄ちゃん。劇って?」

「ああ、うん。学校祭のクラス発表で劇やるんだよ。男女逆転のロミオとジュリエット。その練習が週明けからあるんだ」

 舞花にはあまり知られたくないが隠していてもいずれバレる。舞花は僕と同じ高校を志望しているから学校祭には絶対に来るだろう。その時バレるより今正直に話したほうがダメージは少ない。

「へー。お兄ちゃん何の役?」

「……ジュリエット」

「え!? すごい! 絶対観に行くよ!」

 舞花の目がキラキラしている。僕はその目をしっかりと見て言った。

「……やめて」

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心の謎が解けるまで 海月海星 @kuragehitode-311

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