4-2

 クラス会議があった次の日。土曜日で学校は休みなので僕は家でゲームをしていた。スマホのアプリでの将棋ゲームだ。

 まだ当然台本もないので特にすることもない。なのでただオンライン対戦で対戦相手をひたすら倒していた。

「お兄ちゃん。入ってもいい?」

 対戦が終わって一息ついているとき、部屋の外から舞花の声が聞こえた。

「舞花? いいよ」

 部屋のドアを開けてスマホの画面を見せながら舞花が入ってくる。

「見てみてお兄ちゃん。このゲームの新作が面白いらしいよ。お金出し合って買わない?」

 それは僕と舞花がよく一緒に遊んでいるテレビゲームのシリーズの新作だ。今までとシステムが少し違うところがあるということで様子をみていたが評判は良いそうだ。

 今日は暇だし舞花と買い物に行くのも悪くないだろう。

「そうだね。今から買いに行こうか」

「やったー! じゃあ服も見たいからショッピングモールに行かない?」

「いいよ。僕もちょっと本屋見たいし」

「わーい! じゃあ舞花ちょっと着替えてくるね。15分後くらいに行こう」

 舞花はそう言って部屋を出て行った。僕も着替えたりして少し準備を進める。

 時間になったので僕たちは家を出て、近くのバス停からバスに乗った。僕たちの家からショッピングモールに行くにはバスのほうがいい。

「お兄ちゃんと出かけるの久しぶりだね」

「そういえばそうだね。今日はゆっくり遊ぼうか」

 元々僕たちは仲のいい兄妹なので一緒に出かけたり遊ぶことに抵抗はない。

 バスに乗ってしばらくすると目的地であるショッピングモールが見えた。地元民がよく訪れるそれなりに大きな施設だ。

 バスを降りて僕たちはまず、ゲームソフトを買うために施設内の家電量販店に向かった。休日ということもあり人がたくさんいたが僕たちは無事に目当てのソフトを購入できた。

「お兄ちゃん。次は服屋に行っていい?」

「いいよ。いくらでも付き合うから好きなとこに行きな」

「ありがと! お兄ちゃん大好き!」

 舞花はそう言って僕に抱きついてきた。

「ま、舞花。周りに人もいるからちょっと恥ずかしいよ」

「いいじゃん。お兄ちゃんと遊ぶの久しぶりなんだしさー」

 確かに舞花には普段から寂しい思いをさせてしまっているかもしれない。

 忙しい母さんに代わりご飯を作ってくれている。僕は僕でそれ以外の家事はなるべく手伝っているが、高校に入ってからは一緒に遊ぶ時間はどうしても減ってしまっている。

 僕より立ち直りが早かったとは言え、舞花の悲しみもかなり深い物だった。

 少し恥ずかしいが今日くらいは舞花の好きにさせてあげよう。

「わかったよ。でも歩きにくいからくっつきすぎないようにね」

「はーい」

 舞花はそう言って体を離し、自分の左腕を僕の右腕に絡ませた。

 服屋を何店か見て歩いた。舞花は結局夏物の服をいくつか購入した。

「お兄ちゃん付き合ってくれてありがと。次は本屋さんに行こうか」

「そうだね。えーと。本屋さんはこのひとつ上の階だったかな」

 僕たちはエスカレーターに乗ってひとつ上の階に来た。

 その時。エスカレーター前の広場のようなところで4、5歳くらいの小さい女の子が泣いているのが目に入った。

「お兄ちゃん。迷子かな」

「かもね。大丈夫かな」

 小さい女の子が泣いているので周りにいる人は誰も声をかける様子はない。

「舞花……」

「うん! 声かけようか」

 さすが僕の妹だけあって僕の言いたいことがすぐにわかったようだ。

 僕たちは泣いている女の子に近づいて、威圧感を与えないように膝をついて目線を合わせて話しかけた。

「どうしたの? 迷子?」

「ふぇ〜ん。おねえちゃんいなくなっちゃったの」

「お姉ちゃんと買い物に来たんだね。お姉ちゃんはどんな人?」

「えっとねぇ。背がたかくて髪がみじかくて……」

 女の子は涙を浮かべながら、自分のお姉ちゃんの特徴を教えてくれる。

「目がキリッとしててちょっと男の子っぽくて……」

 はて。どこかで見たことがあるような特徴だ。知り合いにそんな人がいたような気がする。

「ねぇねぇ。お姉ちゃんはどんな喋り方するのかな」

「えっとねぇ。『まゆり。私は君のことが大好きだぞ』みたいな感じだよ」

 ますます聞いたことある特徴だ。誰だろう。首元まで出かかっているのに。

「えっと……まゆりちゃんかな? 上のお名前はなんていうの?」

「まゆりは瀬戸まゆりだよ」

 うん。この子のお姉ちゃんがわかった。

「お兄ちゃんどうする? 迷子センターに連れていく?」

「いや、大丈夫。この子のお姉ちゃん。多分クラスメイトだ」

「え!? そうなの?」

「うん。舞花。その子に電話するからまゆりちゃんの相手してあげて」

 僕はスマートフォンを取り出して、薫さんの連絡先を探した。

「はーい。まゆりちゃんおいで〜」

 まゆりちゃんはちょこちょこと舞花の所に言ってニコニコしている。かなり微笑ましい光景だ。

 薫さんに電話をかけるとすぐに出てくれた。

「朋己か! すまない。今ちょっと忙しいんだ」

 薫さんには珍しくかなり慌てている。こんなに歳の離れた妹が迷子になっているんだから当然だろう。

「薫さん。妹さん探してるの?」

「な、なぜわかった! まさか朋己は名探偵じゃなくてエスパーか!?」

 やはりかなり慌てている。

「残念ながら僕は名探偵でもエスパーでもないよ。たまたま泣いているところ会って、話を聞いたら薫さんの妹さんじゃないかなって。まゆりちゃんだよね?」

「そう! まゆりだ! ありがとう朋己。場所を教えてくれるか?」

 僕は今自分がいる場所を伝えて電話を切った。

「舞花。やっぱり友達だったよ。まゆりちゃん。お姉ちゃんはすぐに来るからね」

「よかった〜。ラッキーだったね。お兄ちゃん」

「おねえちゃんくるの? やったぁ」

 先ほどまでの泣いている様子と違ってまゆりちゃんはすっかり笑顔だ。

 ちょっと待っていると指定した場所に薫さんが走ってやってきた。

「まゆり! まゆり!」

「おねぇちゃーん!」

 2人は走ってお互いのところまで行き抱き合った。

「まゆり、よかった。ごめんな。目を離してしまって。私はダメなお姉ちゃんだな」

「おねえちゃんはダメじゃないもん。まゆり勝手に歩いてごめんなさい」

「いいんだ。いいんだ。無事でよかった」

 抱き合ったまま2人は謝りあって薄っすら涙を浮かべている。その様子を見て僕と舞花は顔を見合わせて笑い合った。

「朋己。本当にありがとう。なんとお礼を言ったらいいか」

「そんな。たまたまだよ」

「まゆりを見つけてくれたのが朋己でよかった。ところで隣にいる子は?」

「ああ。妹の舞花だよ」

 僕が舞花を手で示して軽く紹介すると舞花は一歩前に出て自己紹介をする。

「初めまして! 黒崎舞花です。歳はお兄ちゃんの一個下でマイブームはスパイスからカレーを作ることです。いつもお兄ちゃんがお世話になってます」

「お世話になっているのはこちらだよ。私は朋己のクラスメイトの瀬戸薫だ。兄共々これからよろしく。舞花」

 コミュニケーションが高い人同士だけあってすんなり仲良くなれたそうだ。僕には真似できない芸当だ。

 その時腰の辺りからズボンをちょいちょいと引っ張られるような感覚があった。

「ともみー。まゆりともよろしくして」

「こ、こらまゆり。朋己お兄ちゃんだろ?」

「別にいいよ。気にしないし。まゆりちゃん。よろしくね」

 僕が目線を合わせてまゆりちゃんの小さい手をとって握手をするとまゆりちゃんは嬉しそうににっこりと笑った。純粋無垢な可愛らしい笑顔だ。

「ともみよろしくね!」

 まゆりちゃんがそう言うと薫さんは少し呆れたような笑顔で「まったく」と言った。それでも本気で怒っているようなわけではなく、その様子を微笑ましく見ているような顔だ。

「そうだ。朋己。舞花。これから何か予定はあるのか?」

「うーん。予定というほどの予定は特にないけど、ちょっと本屋さんにでも行こうかなって思ってたよ」

「そうか。もしよかったら、まゆりを見つけてくれたお礼にお茶でもご馳走させてくれないか」

 その提案に僕と舞花はどうしたものかと顔を見合わせた。

「私たち何もしてないんで悪いですよ」

「そんなことはないよ。君たちは恩人だからね」

「ともみー! まいかおねぇちゃん! いっしょに行こ!」

 なぜ僕は呼び捨てで舞花にはお姉ちゃんがついているんだろう。まあ気にしないが。

「まゆりもこう言っていることだし。もちろん無理にとは言わないが」

「じゃあ行こうか。舞花」

「そうだね。お兄ちゃん」

 こうして偶然ながらも黒崎兄妹と瀬戸姉妹でお茶をすることになった。

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