残響

荒川 悠一

第1話 過去へのプロローグ


なんで…なんでこんなことになったんだよ…。僕たちが何をしたって言うんだ…!

ただ生きたかっただけなのに。ふつうに皆んなと変わらないような生活を送れれば、それだけでよかったのに。


思いとは裏腹に足だけは前に進み続ける。絶対に許さないと、一歩一歩憎しみを込めて。拳は怒りによりいつのまにか血が出ていた。目からも血が出ているのではないかと言うほどに、ほとばしり濡れていた。息が切れても、足が折れそうでもひたすら走った。


いつのまにか僕はかれを追い詰めていた。思い出の海に。幾度なく彼女と足を運んだ海に。心が疼く、騒めく、荒れ狂う。色んな感情にもう精神が耐えられそうにない。


「なぁ、海って何色だと思う?」


僕は懐かしい言葉を口にする。その口調は思いの外穏やかで自分でも驚くほどだった。


「青色だとか、水色だとか、汚いから茶色だとか色々言ってたけど、ぼくの意見は最初から変わらなかった。ずっと海は『空色』だと思ってたよ」


かれは疲弊しきっているのか、ただ困惑しているからなのか口を開かない。それか開く勇気すらないのか。


「そしたら彼女が言ったんだ」


『なら海は君の心を映しているのかもね!君は空のように広くて、澄んだ心の持ち主だから』


「最初は何を言ってるのかわからなかったよ。僕は現実的に考えて言ったつもりが、まさかそんなに、不思議で、素敵な答えが返ってくるとは思わなかったから…。それまで自分のことを良く思ったことなんてなかったから…!」


数多の思い出がよみがえってくる。この場所はダメだ…。自分を抑えられそうにない。ごめん、ななさん。ぼくは…おれは…!


「今、海の色は何色だ?…おれは『黒』だ。おまえを、殺すことしか考えてないからなぁ…!」


そうなったらもう止まらなかった。


「なぁ、てめぇ何考えてんだよ…。お前みたいな奴がいるから!罪もない人が不幸になるんだよ!なんで…!なんで、ななさんがこんな目に合わなきゃなんねーんだよぉ!!」


絶対に許さねぇ…。


僕はかれに想いをぶつけながら、君と初めて会った日のことを思い出していた。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

残響 荒川 悠一 @arash

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

フォローしてこの作品の続きを読もう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ