第6話

 家に帰ると、母さんに夜遅くなったことを叱られたが、事情を話すと態度が変わった。

 すぐに悠里の母さんにお礼の電話を入れた。

 「逆に頑張って」と応援されたので、勘違いしないでくれと言った。

 どこまで進んでるの? とか絶対に離しちゃ駄目よとか。

 まだそこまでの関係じゃない。

 ノリノリの親をなだめるのに逆に苦労させられた。





 俺は自分の部屋に戻ってTS病を調べた。

 新聞のベタ記事。ネットの記事。

 そこから新しいことがわかってきた。

 TS病に対する扱いが大きく変わった。

 三年前。ちょうど悠里が施設に入所した時期だ。

 病人扱いして療養治療するという目的から、治療ではなく教育をさせる場所と位置づけが変わった。


 手厚く保護する方針に変わったのだ。

 施設も自信と誇りを持たせていく教育を重点的に行うようになった。

 それはとある調査報告がきっかけだった。


 TS病が流行した最初の世代は既に四十代後半に差し掛かっているが、未だに10代20代の若さをずっと保つ傾向がある。

 さらにはTS病になった者は、適切な成長をすれば高い出産と育児能力を発揮する、と。


 そしてこの結果から手のひらを返した。

 

 この国の一向に回復しない少子化の切り札。


 TS病患者対策法は、tsっ娘健やか成長法に取って代わられる。

 ts病という呼称は来年度を持ってを廃止。

 病気ではなく個性としてあつかう。

 TS現象、性転化、TSっ娘などの言葉を用いる等々。


 俺達が知らない間に世間が大きく変わっていた。

 知らなかったと言うより、気づかなかった。

 一通り読み終えたが、何か気にくわない。

 続いて、「あなたがこれから付き合う彼女がTSっ娘だったら」

というサイトのコーナーを見つけてすぐに開いた。


 原因は不明なもののその他の対症治療はかなり進んでいる。

 TS病は他の性分化疾患や、性の認識にかかわる問題とはまた違う。


 基本的に、適切な環境で過ごしたら、新しい自分を受け入れると。

 家族、あるいはTS娘付き合うことになった場合。

 特別な配慮は必要ありません。


 短く書かれていた。


 世の中時が変われば180度変わる。

 なんてことを先生が以前言っていたが、そんなものなのだろうか。

 少し鼻白む。結局あいつらを自分たちの都合のいいように扱っているのは変わりない。 

 だから、そんな動きに流されてたまるか。

 オレは俺であいつと向き合えばいい。

 俺は、パソコンの電源を落とした。




 一週間後。 

 俺宛に葉書が届いた。あいつが提出したレポートの結果、俺と手紙のやりとりをすることを許可されたのだという。

 もし気になる相手がいたら、やりとりをしてかまわないんだと。

 メール、SNSの時代に珍しいが、かえってこの方が思いが伝わるのかもしれない。

 再びts娘の学校に戻ったが、楽しくやっていると。

 そしてこの間、夏の臨海学校に行ったことの報告であった。

 そのときの写真が添えられていた。


「すっげー。これ全員TSっ娘かよ」


 バーベキュー、海水浴に山登り。

 際どい水着の写真まであったが、くらくらするぐらいにみんな可愛い。

 次に帰るのは、三ヶ月後。また会おうと手紙は締めくくられていた。


「ふざけんな」


 読み終わるなり、思わず呟いた。


「俺もお前にむかついてきた」


 苦しませやがって。

 今すぐ逢いたいじゃねーか。三ヶ月も待てねーよ。

 会えるんだったら、土下座だってしても構わない。

 すぐに手紙の返事を書くべく、便箋を取りだした。



 あいつの復讐はもののみごとに達成されたようだ。

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 TS娘が一番むかつく奴に復讐する話 安太レス @alfo0g2g0k3lf

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