第3話
足踏み。
足を開き、正しい姿勢を取る。
胴造り。
弓を左膝に置き、右手は右の腰に置く。
弓構え。
右手を弦にかけ、左手を整えてから的を見る。
打起し。
弓構えの位置から、静かに両拳を同じ高さに持ち上げる。
引分け。
打起した弓を、左右均等に引分ける。
会。
引分けが完成し、心身が一つになり発射の機会が熟すのを待つ。
離れ。
胸廓を広く開いて、矢を放つ。
残心。
矢が離れた時の姿勢を暫く保つ。
焦燥はない。
身体も、心も、魂も、ほどよく張りつめて、心地よく凪いでいる。
祖母を追い求めたツルネ。
けれど、祖母の音とは違う己のツルネ。
ずっとずっと発展途上。
死ぬまで一生研磨し続ける。
けれど、それまであなたを待たせるつもりは毛頭ない。
今の最大限のツルネであなたを成仏させよう。
気に食わない相手だったけれど、助けられた分の恩返しはこれで果たせただろうか。
「サヨウナラ」
満悦の微笑が生じたのは、どちらだったか。
「ヨオ」
「孫が大変お世話になりました」
「よせい、畏まらんでくれ」
「ふふ。あなたも律儀な人ね。一度の助力で恩を感じるなんて。でも、よかったわ」
「おまんの、姿に。弦音に、心を奪われて、どうやって奪い返そうか考えていた矢先、結婚しちょると知って。行き場を失った全部をどうにかしたかった。生きている間も、死んでからもずっと、じたばたしとった」
「ごめんなさいねえ。罪深い女で」
「ふっ。どっちもぞっこんじゃったのは一目見ただけですぐわかっちょ。馬が入り込んだところで燃え上がらせるだけじゃ」
「あら、よくわかっている」
「まあ、けんど。よーやくじたばたせんでよくなったからの」
「孫に惚れちゃった?」
「あいつは同士じゃからな。そうはならん。ただおまんの存在に同じくじたばたしちょったら、胸がすっとした。じゃから、あいつの弦音を借りておまんに会いに来た」
「心を奪い返しに?」
「んにゃ。心はおまんにやる。それだけ言いに来た。あんがとにゃあ」
「行くの?」
「ああ」
「孫の弦音の行方、知りたいんじゃない?」
「もう、知っちょる」
「タスケテ-」
「あ、ご自分でどうにかしてください」
「薄情もん。おまんの祖母を追いかけ続けた同士じゃろうが!」
「何で二度も戻って来てるんですか!?」
「二度ある事は三度あるってにゃあ」
「じゃあそいつもろとも試してみましょうか」
「おうやってみんしゃい!」
おまんの弦音はしっちょる。
けんど、もう少しだけ聴きたくなったけんしゃーない。
「はいただいまー」
「さっさと成仏してください!」
「ふふふ。まだまだ力不足っちゅーことじゃ。励めよ、同士」
「言われなくても!」
放て 藤泉都理 @fujitori
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
同じコレクションの次の小説
関連小説
ネクスト掲載小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます