造花
春風月葉
造花
その日から私の役割は姉の代わりになった。優しくて器量がよく、年相応の幼く愛らしい見た目に反し、性格は大人びた人だった。私の憧れ。大好きな姉は事故に巻き込まれてあまりにもあっさりと死んでしまった。
きっとそのとき、私は姉と共に私である資格も失ってしまったのだと思う。母は泣き、父は荒れ、家族の歯車は狂った。それからしばらくが過ぎると父は消えた。その頃からだっただろうか。母は私に亡き姉を重ねるようになった。
「お姉ちゃんなら。」それは母の口癖になった。しかし、私は姉の代替品になれなかった。姉も父も失った母をこれ以上泣かすまいと必死に姉を演じても、そこに残るのはいつだって出来損ないの私。私が私で居続けていたなら、母は私までも失いはしなかったのかもしれないと、気付いたときには遅かった。
もし今も生きていたなら姉は美しい女性になっていただろう。そんな姉の代わりになるはずだったのに、正面の鏡に映るのは女の服装をしているだけの何かだ。広い肩幅、浮き出た喉仏、膨らむことのない胸も、全てが私では姉になれない事実を突きつけてくる。最近では髭も生え始めた。
母が私の名を呼んでくれなくなったのはもう随分と前のことだが、最近では私に向かって姉の名を呼ぶこともなくなった。私は何かになれたのだろうか。問いかけても答えは返ってこない。鏡に映るのは醜い姿の化け物だった。
造花 春風月葉 @HarukazeTsukiha
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