お父さん!

 見事〈応答さん〉に選出された私は、マスコミの集中攻撃にさらされた。

 同じように取材された父は、ニヤリとして誇らしげに語ったそうである。


『……二十年前、あいつをのは、いまから振り返れば、安い買い物だったよ』


 応答官舎への引っ越しを終えた私は、半月遅れでその記事をみた。

 なんともいえない心境、というべきだろうか。私のなかの言語解析機能はアップデートされておらず、どのように形容していいのかわからない。

 母は、取材には“ノーコメント”を通したようだ。


「最後じゃないし」

 最後の挨拶に家を訪れたとき、父は、私の口調を真似まねて言った。

「……おまえが〈応答さん〉に選出されたおかげで、なにもかもが、うまくいきそうだよ。ありがとう」


 このときばかりは、愚直で、真っ正直なかつての父に戻っていた。

 父の計画を知らないことにしてと母から念を押されていたので、私は、ただニコニコと応じていた。


          ⚪


 〈応答さん〉の仕事に慣れ出した頃、国民から寄せられる質問の多様さに驚かされたものの、そこに根付いている共通した幻想に気づいた。


『応答さん、わたしたちは、いつまで、家族ごっこを続けなければならないの?』


 そんな質問が多い。

 そして私の応答はいつも同じ。


『かつてこの地上に繁栄し、わたしたちを創造クリエイトした人間が培ってきた価値観や行動規範から学ぶことが多いから……』


 そんなある日、珍しく母から連絡レラがあった。


「ねえ、お父さんのことだけど……旧式の部品で整備不能だから、廃棄処分にしたわよ」


              ( 了 )


    


 

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応答さん! 嵯峨嶋 掌 @yume2aliens

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