第17話 マフィア関係者
エリックの1LDKの家に行くと、部屋の壁に日本のアニメ、うる星奴らのラムちゃんの拡大コピーが貼られていた。部屋には、ごみが散らばっていた。なぜ、掃除をしないのかと聞くと、掃除機がないと言う。
しかし、彼は大きなソファを持っていたので、ここでまずは、寝泊まりさせてもらい、来月、同じエリアの2LDKのアパートへ引っ越すことで話がまとまった。このアパートは、エリックの会社には近かったが、私の会社には遠かった。
彼は、最初、お前は刀やピストルなどの武器をもっているかと私に聞いた。私は、持っていないと答えた。そして、彼は、パニック障害と躁うつ病を患っており、もうすぐタイ人女性と結婚すると言った。
私は、そのタイ人女性とどうやって知り合ったんだと聞くと、彼のお父さんがカジノのセキュリティをやっており、そのカジノで働くタイ系アメリカ人の女性の姪を紹介されたと答えた。一度、会ったのかと聞くと、まだ会っていないと言う。そして、彼は、フィアンセの写真を私に見せた。ものすごい美人であった。
ある朝、私が起きるとエリックは、私に貯金がいくらあるかと聞いてきた。私は、40万円もっていたが、20万円くらいかなと答えた。すると、結婚資金が10万円不足しているので貸してくれないかと懇願してきた。私は、ダメだと言い、消費者金融で借りることを勧め、彼を連れて行った。
しかし、消費者金融の答えも、ノーであった。私は、条件として私の会社に近いアパートに移ることを条件に、10万円を貸すことにした。私は、朝が弱く旅行会社の近くに住みたかったのである。
エリックは、ほどなくしてタイへ行き、結婚式を挙げてきた。そして、帰国して、10万円は返せないと言って、私の反応を楽しみ始めた。頭に来た私は、それ以降、エリックに返済をきつく催促するようになったのだが、彼は返さなかった。
そして、エリックは、ある晩当時高価だったDVD機器を買ってきた。
「お前、金が無いんじゃないのか!?」
「俺は、今、躁うつの躁の状態にある。だから買い物するんだ」と言って、また、私の反応を楽しんだ。
「どこで買ったんだ!?返してこい!」と言って、私はエリックを店に連れて行った。
しかし、彼は、機器を手形で購入していたため、クーリング・オフができなかった。弱りはてた私は、忙しい仕事の合間に通っていたジムに、併設されたカフェで知り合ったタクシードライバーのアメリカ人に教えを乞うた。
「ルームメイトが貸した10万円を返さないんですよ。返したら一割払いますからアドバイスしてもらえませんか?」
「お前、これやったか?」と彼は言って、襟首をつかみ前後に揺らす仕草をした。
「いや、やってません」
「そうか。じゃあ、簡易裁判所に申し立てを行うと言え。そうすれは、クレジット・カードが使えなくなるなど、いろいろな制約がつくから返してくるだろう」
「そうなんですね。試してみます。しかし、あいつは、なぜ金を返さないんですかね?」
「それは、そんな大金を貸す人間はバカだと思っている」
「アメリカでは、ルームメイトに10万貸したら、バカですか?」
「そういうことだ。アメリカ人というのは、悪い。それが基本だ。しかし、お前のルームメイトは、友情を利用しているだけに悪質だ。もし、簡易裁判所でも、ダメなら俺と友人が取り立てに行ってやる」
そして、彼は、拳を強く握って上向きにして五本の指をぱっと大きく開いて「マッ!」と言った。これはマフィアの意味である。私は、たまたまマフィア物の映画を見て知っていた。怖っ。驚かすなよ!オッサン関係者だったのか。
そう言えば、以前、彼に今後どうするのかと聞いた時、トラック買って長距離ドライバーになるって言ってたしな。私は、ジミー・ホッファという全米トラック運転手組合の委員長が、マフィアと親しいことも映画で知っていたが、とにかく、私は四千円持っていたので前払いしておいた。
帰宅して、さっそく、エリックに金を返さないのなら簡易裁判所に申し立てを行うと言った。すると、彼の態度が変わった。
「分かった。返す。しかし、今は、本当に金がないんだ。待ってくれ」とうろたえた。
それから、少額ずつではあるが、キチンと返金されるようになってきた。10万円、すべてを回収した私は、カフェで見つけたタクシードライバーに残りの六千円を渡そうした。すると彼は、「あぁーん」といらねえよと言った鬱陶しそうな声を出した。
そこで、私は、いかにもマフィアが、好みそうなセリフをとっさに考えて「プロミス・イズ・プロミス(約束は、約束です)」と言った。すると彼は、一転して「そこがお前の良いところだ!」と言って、破顔一笑した。ただ、その後、私が彼と会う事はなかった。カネが貯まって長距離ドライバーになったのだろうか。
その頃、日本で精神薬を服薬していた犯人が、全日空61便ハイジャックして機長を刺殺する事件が起きた。エリックもかなりの量を服薬していたので、私は彼にこう言った。
「お前は、夜ナイフを握って、手首を切ろうとしたと俺に言ったこともある。俺に危害を加える可能性もあるので、俺はこの家を出る」
「違う。俺のは、自虐的なんだ」
そう言って彼は、顔を紅潮させた。しかし、私は、過去にエリックと同じ鬱と軽躁状態にあったし、またパニック障害も引き起こしてしまうのである。
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