某県パーキングエリア、店内清掃

6−1「フードコート」

 5月の行楽シーズン。

 パーキングエリアのフードコートには活気があふれていた。


「いらっしゃい、たこ焼きいかがですか?」


「名物のブルーベリーを使ったソフトクリーム入りのクレープはいかがですか?高原の美味しさがぎっしり詰まった甘酸っぱい人気商品ですよ!」


 沸き立つ湯気、売り子の声。

 防護服を通して感じる美味そうな匂い。


 耳にインカムをつけてのフロア清掃。


「3番テーブル席のお客様、黒豚入りチャーシュー麺が上がりました!取りに来てください!」


 ドンっとカウンターに置かれたのは、湯気立つ美味そうなチャーシュー麺。

 フードコートのテーブルを見ると3と書かれた番号札が1枚置かれている。


 空のテーブルに突然現れた番号札。

 僕は一瞬ためらうも、空腹ゆえにその番号札を取ろうと手を伸ばし…


「食べちゃダメよ。すぐに撤去班が来るから」


 主任にポンと肩を叩かれ、僕はハッと伸ばしかけた手を止める。


 間を置かずに室内に撤去班が入ってくると、机の番号札とラーメンをおか持ち型のガラスケースに入れて持っていく。


 電気の通っていない開かれたままの自動ドアをくぐる撤去班の社員。


 …でも、その時に僕は見た。おか持ちの中の麺がみるみる黒い煤のようになりどんぶり自体も長いこと放置されたように埃にまみれになっていく。


 そして、一緒に持って行かれたプラスチックの番号札がたった一言。


『また、お越しください』


 男とも女ともつかない声でそう話すのを…僕は聞いた。

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