4−3「注文の多い教会」
帽子の男が皿に盛られていたぶどうの実を手で弄んでいる。
休憩室で一触即発の空気の中、僕と主任のスマートフォンに通知が来た。
『お待たせいたしました。ドアの前に立ってください』
主任はドアの前へと進み、僕も5人の横を通り過ぎ後ろに従う。
『ドアから先は振り返らずに、口を慎んで地図に従いお進みください』
ドアノブに手をかける前、主任が後ろに手を出し「握って」とポソッと言う。
僕もそれに従い主任の手を握ってドアの外に出たが…ついで、目を丸くした。
そこは大勢の人でごった返す、広く明るい院内になっていた。
高い天井は外の映像を映しているのか青空が見えており、通路の合間に設けられた窓からは赤や黄色の色とりどりの花がカゴに吊り下げられている。
誰もが皆、楽しげな顔をして薬を受け取り、会釈し、別の窓へと歩いていく。
その時、主任に手を引かれ、我に返った僕は自分のスマートフォンを見た。
地図によれば、ここから左に曲がった『III』と書かれた窓口に行くようだ。
そうして歩き出すと、僕の後ろでドアが3回開く音と足音が聞こえ、4回目にドアを開ける音に合わせてくちゃくちゃと何かを噛むような音と注意する老人の声が聞こえてきた。
「ちょっとあんた、さすがに休憩室で食べ物は…」
その時だった。
べちゃっ
ブチュッ
何かのつぶれる音が二箇所同時にした。
その時、スマートフォンに再び文字が届く。
『休憩室内での食事の禁止』
『ドアから先は振り返らず、口を慎んで地図に従いお進みください』
主任はそのまま進み、ローマ数字の『III』の看板が下がった窓口で止まる。
すると内側が板で半分以上打ち付けられた窓から異様に長い手が伸びてきて『ココ、血判』と鉛筆で丸がつけられた書類を差し出す。
主任は僕の手を離すとポケットから銀製の蓋つきケースを取り出し、赤黒い色をした朱肉と象牙の印鑑を出すと朱肉をつけてグリグリ判を押した。
『あんがと、じゃあ今度は
フェッフェという声とともに書類が引っ込んで、窓口の板が閉じられる。
同時にスマートフォンから指示が届き、僕は首を傾げた。
スマートフォンは『次の窓口
これでは、先ほど聞いた窓口の説明と違うではないか。
しかし、主任は何も言わず印鑑をしまうと僕に手を握れとジェスチャーする。
僕もそれに従い歩き出すと主任はスマートフォンを見て迷わず『α』の看板のある窓口へと向かった。
すると背後で休憩室で怯えていた青年の声が聞こえた。
「そんな、窓口の人は…!」
グチャッ
何かの潰れる音ともにスマートフォンに指示が届く。
『あくまでスマートフォンの指示に従ってください』
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