7−2「休日の清掃日誌チェック・2」

 連休2日目。


 今日からジェームズは数日間の主張に行くらしく、スマホに『夕飯は1人で食べるように』となぜか身内を心配するようなメッセージが入っていた。


 窓の外は早くも暖かい日差しが差し込み始めていて、遊びに行こうかとも考えるも3月に母親に自分の生活費を除いた給料をほとんど渡してしまっていたので節約のために図書館ぐらいしか行くことぐらいしかできなかった。


(自分のスマートフォンやパソコンを持ったらどうだ?)


 ふとジェームズの言葉を思い出し、再びベッドの上に寝転がる。

 

(…そんなことを言ってもない袖は振れないよ)


 長年使用しているガラケーも間もなくメールサービスが停止するとプラン変更の警告を寄越してくるが、そこから先に進むにしてもガラケーからネットに繋げた途端に画面が分割してしまい、何が書いてあるのか読み取ることができず、正直どうすれば良いのかわからなかった。


(それに今更、スマホにしたいからお金返してと母さんにも言えないしなぁ…)


 ふとあげた手をみると昔はあったペンだこが消えていた。


 パソコンも触らなくなってどれほど経つのか。

 そもそも、腱鞘炎になるほど指を動かさなくなってどれほど経つのか。


(結局、何にもできないんだな…)


 このままでは気分も暗くなってしまうと僕は社用のスマホを取り出し、昨日の日誌の続きを読むことにした。


『1月10日、場所:第55番倉庫(通称、海鮮売り場)温度8℃ 湿度70%

 9:00〜15:00まで、途中3回の休憩を挟んで清掃終了。

 防護服着用の上、シャッターの閉まった海鮮売り場の2F食堂を清掃する。

 清掃員しかいない空間で売り子の声とともに蟹丼がテーブルに1つ出現。

 内容物に異常が見られたので撤去班に引き渡すも、その他は異常はなし』


(喋ったんだよな…あの蟹。主任は平家蟹とか言ってたっけ)


『1月11日、場所:第55番倉庫(通称、海鮮売り場)温度4℃ 湿度80%

 9:00〜12:00まで、途中1回の休憩を挟んで清掃終了。

 防護服着用の上、シャッターの閉まった海鮮売り場の1F売り場を清掃する。

 清掃中にシロナガスクジラ1頭が店の中に紛れ込む。

 掃除を断念し、撤去班に残りの作業を引き渡す、その他は異常はなし』


 僕は売り場いっぱいに押し詰められたクジラから逃げたことを思い出し、当時本当にこの職場はなんなんだと感じていたことを思い出す。


『…2月4日、場所:第31番倉庫(通称、宝物殿)温度15℃ 湿度25%

 8:30〜16:30まで、途中3回の休憩を挟んで清掃終了。

 防護服着用の上、当神社の神主監修のもと清掃作業を行う。

 終了後、神主が半日前に故人となり霊安室を抜け出したことを確認する。

 遺体は撤去班に引き渡し、清掃終了との判断になった』


 …やっぱり冷静に考えるとおかしい話だ。僕も清掃完了後に神主が外で倒れるまで、ついぞ死体だったとは気がつかなかったのだ。


 そうしているうちにヤカンのお湯の沸く音が鳴り響き、僕は慌ててカップ麺を作るため、スマートフォンを机の上に置いた。

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