社内倉庫、清掃日誌
7−1「休日の清掃日誌チェック・1」
6月初め、勤めて半年以上経っているのに有給を消化しないとは何事かと僕は主任に叱られ、土日を入れた5日間の連休を味わっていた。
主任はもっとゴロゴロしろよと文句を言ってきたが、根が真面目なジェームズはせめて社用のスマホアプリに入っている清掃日誌に1日1回は目を通すべきだと主張した。
「…ところで、本当に今まで日誌を読んだことがなかったのか?ここに入社してすでに半年近くも経ってるのに?」
それを聞いて、僕は無言で彼のお手製のグラタンを食べることにする。
…清掃日誌とは文字どおり清掃した日の記録だ。
始めて入力したのは入社二週間目の時だったが、必ず主任が目を通し、文章の乱れや齟齬の量によって今後の体調管理や清掃方針を決めるのだと言っていた。
フォルダを見ると『外部委託』や『新規事業』、『倉庫整理』と並んでいて、その中でも『倉庫整理』が重要だとジェームズは言った。
「会社で管理している倉庫の清掃作業は当番制だからな。セキュリティレベルが高いものは倉庫自体を高レベルのエージェントや科学研究部門の職員が管理し、彼らお抱えの撤去班が清掃に当たるものだが、安全性の高い甲乙レベルだったら清掃班が作業に当たることになっている」
ジェームズがマカロニをフォークで刺しながら(…まったく、どうして勉強しないのか)といった目で僕を見るが、僕は目をそらしてサラダに移る。
何しろ、主任は「上に報告して問題なきゃ、それでいいから」という理由で、そんなもの読み返す必要なんてないしと主張していたし、ファイルによっては、セキュリティレベルで弾かれたり、読むにしてもいちいち本人確認のアカウントとパスワードの入力をしなければならないので読む気にすらなれなかったのだ。
「そんなもの慣れれば造作もない…で、俺に聞くぐらいだから操作方法も教わりたいと…そういうことか、小菅?」
(ごもっともです)
僕はジェームズの淹れてくれた冷たい氷入りのオレンジティーに口をつける…全く、未だにこの手の機械の操作にはついていけない。
するとジェームズはため息をつき、部屋を見渡した。
「小菅も自分のスマホやパソコンを持ったらどうだ?家具もベッドと本棚ぐらいしかないじゃないか。俺の部屋のテレビや図書館の新聞で情報を入手すれば十分だとかそういう甘い考えはやめてくれ。3月にボーナスも支給されたのだから、もっと向上心を持つべきだと俺は思うぞ」
食べ終えた皿を綺麗に片付けるジェームズ。彼が帰った後、僕はベッドの上にゴロンと横になり、彼の助言に従うでもないが、まずは自分が書き始めた12月からの日誌を読み始めることにした。
『12月11日、場所:第76番倉庫(通称、山小屋)温度15℃ 湿度25%
8:30〜16:00まで、途中3回の休憩を挟んで清掃終了。
防護服着用の上、1Fのロッカー上の天井からすす払いを開始。
電球交換及び、室内をポリッシャーで清掃。異常なし』
『12月12日、場所:第76番倉庫(通称、山小屋)温度11℃ 湿度25%
8:30〜16:00まで、途中3回の休憩を挟んで清掃完了。
防護服着用の上、地下ロッカー清掃。
部屋に大量の梵字が浮かび取れなくなる事案が発生。
ドグラによる電話連絡後、エージェント・ジェームズが来訪。
床面に仏像を置いたところ文字は全て仏像に収まり、清掃終了となる』
(そんなこともあったなあ…)
僕は当時のジェームズの憮然とした顔を思い出しくすくすと笑い、時間も時間なので残りは明日読むことにした。
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