某科学博物館跡地、清掃待機
5−1「うららかな春の鼓笛隊」
「今日の清掃はストップ。上にちょっと報告するから車で待機して」
公衆トイレから戻った主任は車の窓越しに僕にそう言うとダッシュボードから1枚の絆創膏を取り出しスマートフォンを手に車から離れた。
一昨年に閉鎖となった科学博物館。
この道の坂をさらに上れば、大型のアスレチックやイベントが行われる大きな広場に繋がるのだが、お花見シーズンが過ぎたせいか4月の平日は人気がなく、春特有のうらうらとした陽気で車の中でまどろんでしまいそうになる。
主任はスマートフォンの向こうで誰かと話しているようだが、話が終わらないようで、しばらくスマートフォンを見つめるとイラついた様子でどこかへ行ってしまった。
車で待機しているように言われた以上、僕は待っている他ない。
でも、こうも暖かいと眠ってしまいそうになる。
…気がつけば、どこからか軽快なテンポの音楽が流れてきた。
みれば、科学館の裏から動物の被り物をした楽団がやってくる。
イヌにネコにゾウにヤギにキツネ…お手製なのか、統一された褐色の布で作られた被り物はところどころ大きな縫い目や継ぎはぎがあるものの、視界の狭い中で器用に太鼓や笛を演奏しているので稽古中かと僕は考える。
おそらく次の土日辺りに近くの広場で演奏イベントでもするのだろう。
僕はフワワとあくびをし、眠気覚ましにドリンクホルダーに置いていた未開封のお茶を手に取る。そして中身を飲もうとしたとき…僕はその手を止めた。
車の前に先ほどの動物たちが並んでいる。
イヌにネコにヤギ…彼らは演奏もせず直立不動で車をじっと見つめていた。
「?」
その瞬間、僕の座っている助手席側のドアロックがガチャリと言った。
みれば、ゾウの被り物をした人間がドアを開けている。
「え?」
瞬間、運転席側からキツネの被り物をした人が乗り込み、首にスタンガンが押し当てられると僕の視界は一瞬にして真っ暗になってしまった…
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