某小学校旧校舎、廊下清掃
3−1「主任からのメッセージ」
『小菅くんへ、明日中に小学校旧校舎の清掃作業をお願いします。私は行くことができませんがジェームズに現地まで送ってもらってください』
2月恒例の3日間の海外研修に行っているはずの主任。
その主任から、このようなメッセージが来たので僕はいささか面喰らった。
…仕事を始めてから3ヶ月め。
普段は2人1組が基本だと言っていた主任がここに来て初めて単独で清掃活動するように言ってきたのだ。
(まあ、主任の突発的な考えはよくあることだけど…この2日間も暇だったし)
研修期間中、ペアを組んでいた僕には余暇が設けられていた。
ジェームズ曰く「このような日にはジムに行ったり資料庫で本社の歴史について学んだりすると良い」そうだが、主任は「若者よ、ダラダラ過ごすのだ!」とのんきなことを言っていて何も思いつかなかった僕はとりあえず図書館で読書をして連休を過ごすことにした。
「ダメだ、ダメだ!もっと真面目に生きていかないと」
そう叫んだジェームズは、メールの内容を相談するとすぐさま会社の車で指定場所である旧校舎まで連れて行ってくれた。社用の大型バンはエージェントでも撤去班でも同じ型を使うそうで後部座席にはポリッシャーなどの清掃用具一式が詰め込まれていた。
「もし、清掃班で事故があった時には全てこちらの責任になる。後始末の道具を積んでおくことは当然なのだよ」
スマホの地図機能を使わず、紙の地図を見ながら話すジェームズ。
「この後、職場復帰した先輩と合流することになっていてな、念のためルートを確認しているんだ…小菅、上の人間がいないからといってダラけた態度を取っていてはあっという間に堕ちた人間になってしまうぞ、程よい刺激と程よい仕事を行うよう常に心がけておくんだぞ」
そう注意しながらもジェームズは鉄筋コンクリートの旧校舎に着くと4階まで簡易清掃機を運んでくれた。聞けば、集合時間よりも少し早めに移動してくれたようで彼の先輩も遅刻魔なので多少遅れても問題ないということであった。
「…
額に汗を浮かべながらジェームズはそうつぶやくと足元がおぼつかない様子で階段を上る。簡易清掃機はキャスター付きなので本来移動は楽なはずなのだが、エレベーターも付いていない旧校舎で4階まで中身の詰まった荷物を運ぶには男二人でも相当難儀した。
「終わったら俺のスマホに連絡をくれ。先輩に手伝ってもらえば階段も少しは楽だろう。退院から随分と経っているだろうし、体調面も問題ないだろうから快く引き受けてくれるはずだ」
息を切らしながらも後ろのコードを引っ張り出して校舎の電源に繋いでくれるジェームズは僕にスマートフォンを出すとこう指示した。
「機械は動き出すまでに時間がかかる。車から
そして階段を下りるジェームズから簡易清掃機とスマートフォンの連携方法を教えてもらい、僕らは一旦校舎の外へと出た。
「…にしても、ドグラも不思議なことを言うな。俺にも似た様なメールは来たがここは俺たちの調査対象とは少し離れているし調査前に清掃をするなんて初めてのことじゃないか?」
ポリッシャーを僕に渡しつつ首をかしげるジェームズ。だが、同時にポケットのタイマーが鳴り出すと慌てた様子で車に乗り込んだ。
「いかん、そろそろ行かねば。ナビが使えんからタイマーでスケジュールを管理しているんだ、まあ先輩ならやや遅れても問題はないが…」
だが、その途中「ん…?」と首をかしげるとジェームズは車から布を取り出す。
「…これは、近所の子供の仕業か?」
みれば、後部ガラスに小さな子供の手形が二つほど付いており、ジェームズはそれを拭き取ると旧校舎を見上げた。
「そういえば、玄関の鍵も開いていたな。子供が入り込んでいる可能性もある。もし見かけたら、この辺りに妙な生き物が出没するから注意して家に帰るようにと促しておいてくれ」
(…妙な生き物?)
僕はそれについてジェームズに尋ねようとする。
しかし、気がついたときには車は上り坂を走り去ってしまい、ポリッシャーを持った僕は旧校舎の前で呆然と立ち尽くしていた。
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