幕間① わたりネコの相方

時間軸は、第1章幕間「老作家ポッサ」の続きです。

シャノワと老作家ポッサが、第2章のお話をふり返ります。


🐈🐈🐈🐈🐈


「わたりネコには、『相方』が必要なのです」


 あるとき創造者エイベルムは、「わたりネコ」になったボクにそう説明した。


 ボクがディヴェルトで見たコト聞いたこと体験したコトを、コチラの世界のニンゲンに伝えて欲しいという。


 つまり、お話の聞き手が「相方」らしい。


 「わたりネコ」になっても、ボクはコチラの世界のニンゲンに出来るだけ関わらないようにしていた。べつにニンゲンが嫌いなワケじゃない。けれども、関わるコトを避けていた。ボクは幼いころ、ニンゲンに捨てられた記憶があるからだ。


 ボクはエイベルムに尋ねた。なぜコチラの世界のニンゲンに、そんなコトをお話しなきゃいけないのかと。


 彼は真面目に取り合ってくれなかった。


「ネコの貴方が、それを知る必要はありません」


 という答えが返って来ただけだ。なんとなくだが、ロクでもない目的があるのだろうと推測する。


 どうせ、彼の娯楽のための投資だろう。お話を聞いて、ディヴェルトに興味を持つニンゲンがいるかもしれない。そして、銀浪洞神社にのこのこやって来たニンゲンをディヴェルトに送り込むつもりだろう。


 そうとは言え、一応、彼は神サマ(?)だ。

 気は進まないケド、彼の言うとおり「相方」を探すコトにしよう。コチラの世界のお散歩コースを散策がてら「相方」を探した。そんなときに出会ったニンゲンが、老作家ポッサだ。


 ニンゲンの言葉を話すボクを見て、彼は目をまあるくしていた。

 けれども、


「一度、ネコ目線の話を聞いてみたかったんだ」


 そう言ってポッサは、ボクの「相方」になってくれた。


 案の定、エイベルムは「あのような老人では、楽しめません」と不満そうだった。


 ボクは「相方」となったポッサに、ディヴェルトで見たコト聞いたコト体験したコトをお話した。

 彼は、いつも楽しそうにボクのお話を聞いてくれた。



 今日だって、彼はディヴェルト・ライレアのお話を聞いてくれている。


 陽当たりの良いテラスで、ポッサは椅子の背もたれに身体をあずけるようにして座っていた。ボクがしたお話をノートに書き留めた後、内容を確認している。


 ボクはテーブルの上にちょこんと座り、しっぽをふりふりしながら、その様子を眺めていた。


 ひととおりノートに目を通し終わると、ポッサはボクの方に視線を移した。なにか聞きたいコトがあるようだ。


「『黒猫会議』か。名前は可愛らしいが、秘密結社みたいだね」


「レオン王子を支援する者たちの集まりなんだケド、まぁ、キミの言う通りかもしれないね」


 「黒猫会議」は、アルメア王国第一王子レオンを支援するための定期的な集まりだ。この集まりは、いまのところ公にはされていない。


 メンバーは、アルメア王国第一王子レオンとボクのほかに、ギルド9625からはエイトス、剣聖アリス、ラステル。そしてシャシャ商会大会頭ユヌス、ノウム教会のハウベルザック枢機卿、アルメア王国王女ソフィア。


 レオンは、王位継承権争いの渦中にある。にもかかわらず、彼には有力な支持者がいなかった。たびたび命も狙われた。

 そこでボクは、彼の身の安全を図るために支援者を集めてきた。それが「黒猫会議」だ。いまでは、かなりの有力者たちが集まったと思う。


「それから『サタナエル石』。天使の魂、悪魔の魂を魔石化したモノ……。そんな魔石だったなんてね。ラステルさんも、さぞショックだっただろう」


 眉尻を下げて、悲し気にポッサは言った。


 黒猫会議で議題に上がった魔石、「サタナエル石」。魔力を生成する不思議な魔石だ。

 ヴィラ・ドスト王国の王宮から流出したものを「黒猫紳士」の依頼で購入した。


 当初、ボクは「サタナエル石」の製法を明らかにできるなら、この魔石を量産しようと考えていた。アルメア王国に「エネルギー革命」を起こすコトが狙いだ。

 その手柄をレオンのものにすれば、多くの貴族や平民の支持を受けられると考えたからだ。レオンの勢力を拡大できたハズだった。


 ところが「礎のダンジョン」一八〇階層のボスである骸骨騎士スケルトンキングシュパルトワの証言から、とんでもない事実が判明した。

 「サタナエル石」は、ラムダンジュまたはラムドゥデモンによってニンゲンに宿った天使または悪魔の魂を魔石化したモノだった。


 ラムダンジュとラムドゥデモンは、教会の戒律により禁忌とされている。それ以上に素材がニンゲンでは、量産はあきらめるしかない。


「流石に、ラステルもニンゲンを素材にしていたとは思わなかっただろうね」


 ボクがそう言うと、ポッサは書き留めたノートを見ていた。眉間に皺を寄せて、顎に手を当てている。


 そして何を思い付いたのか、すこし難しい顔をしてノートに何やら書き込み始めた。時折、頭を掻いて宙を睨みながら、ペンを走らせていた。


 ノートへの書き込みを終えると彼は、その内容を確認する。それから、ボクの方に視線を移して微笑んだ。


「喉が渇いたね。何か飲むかい? ミルクでも持ってこようか?」


「うーん。いや、水でいいよ」


 ミルクも悪くない。けれども、今は水の方が飲みたい。


「ちょうど『軟水』のミネラルウォーターがあるよ」


 ネコにミネラルウォーターを与える場合、硬水よりも軟水のモノがいいという。硬水を常飲させると、病気のリスクが高まるのだそうだ。


「ありがとう。ポッサ」


 ボクがそう答えると、ポッサはゆっくりと椅子から立ち上がった。部屋の中へと入っていく彼の背中をボクは見送った。


 ……それにしても、サタナエル石を流出させた狙いには閉口したね。


 ボクはテーブルの上で、まあるくなって目を閉じた。


 サタナエル石の流出には、人騒がせというか、調子がいいというか、フザケた狙いがあった。サタナエル石を流出させた「彼」に、ねこパンチを食らわしてやろうかと思った。


 ふふっ。まあ、「彼」も、サタナエル石が「黒猫紳士」の手に渡るとは思わなかっただろうね。


 つぎの話では、その辺のこともポッサに話してあげよう。

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