第13話 プロテクトと鑑定阻害
エイベルムに、釘を刺されてしまった。
ふたつあるうちの、ひとつの命を剥がされた。
ふたつ目の命を剥がされると、もうここに戻ってくることはできない。
今後、ボクの行動によってニンゲンの社会に及ぼした影響が、彼の気に障るようなモノである場合、このライレアに渡るコトができなくなってしまう。
そうなれば、もうレオンに会うコトができない。皆に会うコトができない。
それは、胸が締め付けられるように心細い。大切なモノをすべてを失うのではないかと考えたら、身体が動かなくなるようなカンジがした。
コンコン。
夢うつつのなか、ドアをノックする音が聞こえてくる。
「ラステルです」
「どうぞ、お入りください」
ラステルとエイトスの声が聞こえた。
ゆっくりとボクは目を開く。そこには、羊皮紙の束を抱えたラステルが立っていた。
あれ?
執務室の窓から差し込む太陽の光が、眠りについたときとは違う。
たしか、この部屋に入ったのは昼過ぎだったハズだ。
ボクはおもむろに顔を上げた。
「マスター・シャノワ。お目覚めになりましたか」
エイトスの声がする方へ振り返ってボクは尋ねた。
「ボクは、どのくらい寝てたの?」
「昨日は、あれからずっと眠っておられましたよ」
そんなに寝ていたとは思わなかった。
悪い夢のお告げがあったせいか、体がだるい。
たくさん眠ったハズなのに。
ボクは重い身体をなんとか起こした。
頭を下げ前傾姿勢になって、くあーっと伸びをする。
そして、テーブルに置かれているラステルがまとめた報告書に目を通した。
今回の解析で明らかになったコト。
①かなり高品質な魔石であるコト。
②三属性の魔力を持つコト。
③「亜人」と同様の特徴の魔力の波動を持っているコト。
④天然魔石か人工魔石かは、いまのところ不明。
⑤機密保持の術式がかけられており、素材は不明。
ボクは、前足をぺろぺろ舐めて毛繕いをした。
重量1.5プランク……。結構、重いね。猫缶「銀のスプーン」二二個分くらい? じゃなかった、1.5㎏だっけ? たしか、1プランク(1㎏)=1000グラン(g)だったハズ。
「……やはり一筋縄ではいかないようです」
ラステルが、そう言って残念そうな悔しそうな表情で俯いている。
ボクは、一枚の羊皮紙に描かれた魔法陣に目を見張った。
この「プロテクト」の術式はスゴいね。こんな魔法陣を組むコトができるニンゲンがいたのか……。
「マスター・シャノワに、ひとつお尋ねしたいことが……」
前に座っているラステルが、ボクの方に顔を向けた。
「ん?」
「イサク先生もアンソニーさんも、鑑定スキルを持っていました。けれども『サタナエル石』であることや、人工魔石であることまでは判らなかったようです。どうして、マスター・シャノワには診えたのでしょうか?」
ボクは、宙を見ながら考えてみた。
イサクの鑑定レベルは、たしか65。アンソニーは、55だったハズだ。ボクの鑑定レベルは96。というコトは……。
「たぶん、レベルじゃないかな? あの魔石には『プロテクト』のほかに、鑑定阻害もかけられているんだろう。一定レベル以下の者には診えないんだろうね。キミの『ラムダンジュ』と同じように」
人工魔石にかけられる「プロテクト」は、通常、術式を解除しなければ隠蔽された情報を診るコトはできない仕組みだ。
たとえば隠したい情報などに黒い布を被せてしまうイメージだ。どんなに目が良くても、布を取っ払わないと隠されたところを見るコトができない。
つまり鑑定レベルがどんなに高くても、「プロテクト」を解除しなければ隠蔽された情報を診るコトはできない。
鑑定系のスキルは、対象に術者の魔力を放って対象が持つ情報を探るスキルだ。
たとえばヒトや魔物に使えば、名前、能力、スキル等を診るコトができる。魔石であれば、名前、天然魔石か人工魔石か、素材等が判る。
他方で鑑定阻害は、鑑定系のスキルが対象物に放たれた魔力を妨害するモノだ。ただし術者のレベル以上の鑑定阻害をかけるコトはできない。
このため、鑑定阻害をかけた術者のレベルを超える鑑定スキルを持つ者には効果がない。
たとえば、物を遠くに置くイメージといえばいいだろうか。
遠くに有るものは当然見にくい。どこまで遠くに置くコトができるかは、術者の力次第。
けれども見えにくくなっているだけなので、目が良ければ見える。
すなわち、鑑定レベルが鑑定阻害をかけた術者のレベルよりも高ければ診るコトができる。
ちなみにラステルの持つ「ラムダンジュ」も、一定レベル以上の鑑定スキルを持つ者以外には診るコトができない。
ギルド9625で採用後、彼女にそれとなく確認してみたところ、発現したかどうかに関わらず、「ラムダンジュ」保有者かどうかを診るためには鑑定レベル90以上が必要なのだそうだ。「ラムダンジュ」自身に強い鑑定阻害がかかっているらしい。
つまり強い鑑定阻害がかかると、ボクには診えて彼らには診えないというコトが生じる。
ある意味、手間が省けたというか、僥倖だったと言えるかもしれない。
イサクやアンソニーに、魔石の正体について口止めする必要がなくなった。
そして、そのコトがかえって彼らの興味を引く結果となった。
「鑑定阻害まで、かかっていたなんて……」
ラステルは、ため息混じりにそう呟いていた。
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