第17話 ボクに預けてくれないか?
処分されたハズのニンゲンが、じつは生きていた―――
しかも、そのニンゲンは暴走する天使の力で破壊と殺戮を繰り返し、世界を破滅させるかもしれない。やや大ゲサな気もするケド。
ヴィラ・ドスト王国はもちろん、他の諸国にとっても、ノウム教会にとっても野放しには出来ない事実だろう。
一刻も早く探し出して「処分」しなければ、大惨事を引き起こす可能性がある。
すでに、このニンゲンを抹殺するために動き出している国もあるかもしれない。
―――身柄を拘束してヴィラ・ドストへ送り返すつもりも、教会に引き渡すつもり もない。
―――キミを失いたくない。
ギルド9625でラステル・クィンを採用するさい、ボクは彼女にそう言った。
それは、裏を返せば「命を懸けて彼女を守る」という決意の表れだ。
彼女を守るためには、ノウム教会枢機卿であるハウベルザックの理解がどうしても必要になる。
ボクは、ラステルを「ギルド9625」で採用した経緯等について彼に説明していく。
採用選考にあたって課した「魔物の討伐課題」。
彼女は、森に入るなりゴブリン三体をクロスボウで瞬殺。その翌日には括り罠を仕掛けてホーンラビットを討伐した。そして最後にアルメアボアを討伐して、与えられた課題を達成した。
アルメアボアは、ベテランの冒険者でも手を焼くほどのスピードとパワーを持った巨大なイノシシのような魔獣だ。
見習いの冒険者や新米の冒険者が、単独で討伐できるような魔獣ではない。
にもかかわらず、見習い冒険者のラステル・クィンは自分の能力を駆使して、この魔獣を単独で討伐してみせた。
彼女の討伐課題に帯同し審査したのはボクだ。
魔物討伐のさいに見せた彼女の段取りの良さ、豊富な知識、優れた技術は、どれも目を見張るものだった。
くわえて、彼女は自分の力を高める努力を怠らなかった。
おもに剣やクロスボウの訓練をしていたケド、とくにクロスボウは一流の腕前と言えるまでに成長した。
それらは「ギルド9625」、ひいてはアルメア王国に大きな利益をもたらすだろうとボクは考えている。
もちろん、ボクはラステルが未発現の「ラムダンジュ」を宿しているコトを知っていた。初めて会ったときに「鑑定スキル」で診たからだ。
これまでの通説が正しければ、ラステルの双子の姉が正常な「ラムダンジュ」発現者なら、ラステルの「ラムダンジュ」は発現しても暴走する可能性がある。
とくにハウベルザックが懸念するのは、この点だろう。
その場合は、ボクと、エイトス、そして「アルメアの剣聖」アリスの三人が命を懸けて彼女を討つコト。
ラステルの「ラムダンジュ」が発現するまでは、この二人と一匹の近くに彼女を置いて単独で討伐依頼などの仕事はさせないコト。
などを、できる限り詳しく説明したつもりだ。
ボクが説明している間、ハウベルザックはまったく表情を変えるコトなく黙って聞いてくれた。
ひととおり説明が終わると、彼は目を閉じてひとつ深いため息をついた。
「シャノワ様のお考えはよく分かりました。しかし、教会としては看過できる事態ではありません。『ラムダンジュ』は、危険すぎます」
キミは、そう言うしかないだろうね。
彼は、ノウム教会のニンゲンだ。
本心はどうあれ、枢機卿という立場上、この話を報告を受けただけで終わらせるワケにはいかないだろう。
コトがコトだけに、ヴィラ・ドスト王国にあるノウム教総本山へ報告したうえで対応を協議しなければならない話だ。
けれども、ラステル生存の事実はハウベルザックの胸の奥にしまい込んでおいて欲しいと、ボクは考えている。
だから、ハウベルザックを納得させるだけの落としどころが必要だ。
「キミが危惧しているコトはよく分かる。ハウベルザック。しかし、ラステルの『ラムダンジュ』は、そもそも教会の禁忌に触れたモノじゃないよね」
「どういうことですか?」
「彼女は『クィンの末裔』だ。ラステルの母親は、その
「……ふむ」
ハウベルザックは、顎を撫でながらボクの眼をじっと見ている。
その様子から、彼を説得するための突破口は開けたようだ。
「そして、ラムダンジュを持つ双子のうち片方を必ず処分するというのは、教会の戒律でも方針・慣例でもなくヴィラ・ドスト王国の方針・慣例にすぎない」
「それで?」
「ここは、ヴィラ・ドストじゃないよね。アルメア王国だ。ラムダンジュを持つ双子のうち片方を処分するという方針も慣例も、この国には存在しない」
彼は目を閉じ顎に手をあてて、思考を巡らしている。
どうやらボクの説明は、合格点をもらえたらしい。
がたごとと音を立てて揺れる馬車のなかで、ボクはちょこんと座ってしっぽを左右にふりふりしながら、彼が思考を整理し終わるのを待った。
しばらくして彼は整理がついたのか、おもむろに目を開いてボクに視線を向ける。
「ハウベルザック。この件は、ボクに預けてくれないか?」
「……分かりました。シャノワ様がそこまでおっしゃるのであれば、私は創世神様に祈りを捧げつつ黙って見守ることといたしましょう」
そのハウベルザックの言葉を聞いて、ボクはほっと胸を撫で下ろした。
とりあえず静観してくれるようだ。
けれども最後に、ボクは彼にかけなければならない言葉がある。
「ありがとう。それから、キミに報告が遅れたコトは謝罪する。すまなかった」
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