第6話 ネコアレルギーの巨人②

 索敵スキルを発動しながら、ブルトスはきょろきょろと洞窟内を見回している。


 仕方なくボクは隠密スキルを解除して、ブルトスの前にちょこんと座り姿を現した。


「おお。ひ、ひさ、ひさしぶっえくしょっ!」


 ブシャー、ビジャビジャ……。


 ぎにゃー! また、やられたーっ!


 咄嗟に爪を地面に立てて持ちこたえたので、今度は吹き飛ばされていない。


 けれども、自慢の黒い毛並みは最悪だ。


 大事なヒゲにも、ぬるぬるの液体が絡みついている。

 そしてヒゲの先から、ぬるぬるの液体がつうっと糸を引いて滴り落ちた。


「ぐぅ……、久しぶりだね。ブルトス」


 項垂れて答えると、ブルトスはすこし心配そうにボクを覗き込んだ。


「どうした? 元気ないのぉ」


「あぁ、おかげさまで、酷いありさまだよ……」


 ぐじゅぐじゅべとべとになった毛並みを見れば、もう、ため息しか出ない。


 ブルトスは、ネコアレルギーだった。

 だから近くにボクがいると、鼻がむずむずして滝のように鼻水が垂れ、くしゃみばかりしている。


 いくら高レベルの隠密スキルを使っても、ボクの存在はバレてしまう。


 おそるべし。

 ネコアレルギー。


「また、創世神様の遣いか?」


 創世神とは、エイベルムのことだ。

 このブルトスやグラビスなど「礎のダンジョン」の古株は、ボクが「わたりネコ」であることを知っている。


つかいねぇ。首根っこ掴まれて放り込まれただけだよ」


 ちょっと首筋が痒くなったので、ボクは後ろ足でかりかり掻きながら答えた。

 乾いてかぴかぴになる前に、早く、この身体中のべとべとをなんとかしたい。


「いつも思うのだが、創世神様は、お前になにをさせたいのかのお?」


「さぁね? エイベルムは、ボクに、ああしろ、こうしろとまでは言わないからね」


 エイベルムがボクをこの世界に送り込むのは、ディヴェルトを観察するためだというのは聞いている。けれども、ボクにそれをさせてどうしたいのかまでは分からない。興味もないけれど。


 ブルトスは、また鼻がむずむずするようだ。


 すこし身構える。


 ブルトスの顔が歪みはじめた。


 くるか?


 ……来るか?


 …………来るのか?


 ………………まだか?


「シャノワ様っ!」


 びっくう!

「ぎにゃあー!」


 ブルトスのくしゃみを、いまかいまかと待ち構えていたところで、いきなり背後から声をかけられた。

 心臓が身体のなかでバウンドして、全身の毛が逆立った。


 ああ、ビックリしたぁ。


 振り返ると、そこには全身金色に輝く骸骨の騎士が跪いていた。


 金糸で刺繍された黒のローブを纏う威風堂々たる姿。

 腰には、幅広の剣を佩いている。


 スケルトンキングのシュパルトワ。


 一八〇階層のボスだ。

 まめな性格で、いつもダンジョン内に異常が無いか各階層を巡回している。

 ここに現れたのも、そのためだろう。

 

 もとは、いにしえの大帝国の最強騎士だったらしい。

 なんでも、彼の力を怖れた皇帝の手によって暗殺されたのだとか。

 以前、このダンジョンを訪れたさい、とても悲しそうに語っていた。


 彼も礎のダンジョンでは、グラビスやブルトスとならぶ古株のひとりだ。

 もちろん、その実力はグラビスが連れてきた新顔のスケルトンキングとは一線を画す。


「シャノワ様、お久しぶりにございます」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る