第7話 骸骨の騎士はナイスガイ
「おお、シュパルトワか。お主もマメなヤツだのう」
ブルトスのくしゃみは、不発に終わったようだ。
シュパルトワの来訪で、どういうワケか治まった……のだろうか?
しかし、いつ、また彼のくしゃみに襲われるか分からない。
ここは早めに退散した方が、お互いのためかもしれない。
「ところで、シャノワ様。そのお姿は、一体? ……ああ」
べとべとの液体まみれのボクを見て、シュパルトワは察したようだ。
なんとなく、気の毒そうな視線を感じる。
あくまでも、そう感じるだけだ。
だって彼は、見ての通りの骸骨。
さすがに、髑髏の表情を読み取るのは至難の業だ。
「失礼致します。少しの間だけ呼吸を止めて下さい」
そう言うとシュパルトワは、ボクに洗浄魔法をかけてくれた。
ボクの全身が水のような魔力に包まれ、身体についたべとべとをキレイに洗浄してくれる……。
なっ、長い、長いっ! 苦しい。
息が苦しい。
けれども呼吸すれば、魔力の水に溺れてしまう。
洗浄魔法で溺死するような、おバカな死に方はしたくない。
必死で堪える。
頑張って耐える。
気合いで……
もう、ムリっ。
と思った瞬間、ボクを包んでいた水のような魔力がスッと消えた。
た、助かった。……あやうく死ぬトコだった。
大きく息を吸ったり吐いたりして、最後に深呼吸して落ち着きを取り戻す。
そして前足をぺろぺろして、こしこしと顔を洗った。
「大事ありませぬか?」
「う、うん。大丈夫。ありがとう」
シュパルトワのおかげで、ボクはつやつやふわふわの毛並みを取り戻した。
「シャノワよ。最近、どうも上の階層の辺りに妙な気配がしおる。外へ出るなら、道中気をつけて行くのだぞ」
ブルトスが、心配そうにボクを見て言った。
「妙な気配?」
ボクはちょこんと座って、ブルトスとシュパルトワを交互に見た。
するとシュパルトワが、ボクに顔を向けて、
「最近、九〇階層辺りで空間に
と説明してくれた。
「空間の
「今のところ問題は無いようですが、私も少し気になります」
……なにかの前兆だろうか?
「ハッ、シャノワ様っ!」
突然、ボクの目の前が真っ暗になった。
くるくる回転したかと思うと、ぽーんと投げ出されていた。
とっさのコトだったケド、華麗に着地できた。
いったい、なにが起きたの!?
振り返ると、そこには戦慄の光景が広がっていた。
シュパルトワが……、
バラバラになってるっ!?
「うわぁぁぁ! シュ……、シュパルトワ死んじゃったーっ!?」
慌てて、うつ伏せで倒れているシュパルトワに駆け寄った。
大惨事だ。
まるで行き倒れとなった人が、白骨化したみたいな姿だ。
左腕は肩口から外れ、右足も股関節辺りから下が無い。
それらの骨らしきモノが、辺りに散らばっている。
おそるおそる、前足の肉球で胴体部分にちょんと触れてみた。
シュパルトワは、ぴくりとも動かない。
もういちど、触れて……。
「お怪我は、ございませんか?」
びくうっ!
胴体から離れて転がっている金色の髑髏から、唐突に声をかけられた。
えっと……、とりあえず無事……、ってワケじゃないよね?
状況がつかめないから、フリーズするしかない。
とりあえず、ちょこんと座って毛繕いしている。
お、落ち着いて、この状況を整理してみよう。
奥の方では、ブルトスがずるずると鼻を啜っている。
うつ伏せの状態で倒れているシュパルトワの胴体を覆う黒のローブが……。
あぁ、そういうことか。
謎は、たぶん、解けた。
どうやら、シュパルトワはボクを庇って、ブルトスのくしゃみに吹き飛ばされたらしい。
「おお、シュパルトワ大丈夫か? すまんのう」
ブルトスが頭を掻いて、申し訳なさそうに髑髏だけとなったシュパルトワを見ている。
「いえ、いえ。なんのこれしき。大したことはありませぬ。どうか、お気になさらず」
顎をカクカクさせながら、シュパルトワは事も無げに話した。
……大したコト無いんだ。なに気にスゴいな、このホネ。
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