第5話 ネコアレルギーの巨人①

 寂しそうな背中を見せるグラビスに少しだけ後ろめたさを感じながら、ボクは隠密スキルを発動して、こっそりと二〇〇階層を後にする。


 坑道に足を踏み込んだ途端、パキキキとなにか乾いた物が折れるような割れるような音がした。


 下を見ると、ボクの足の下で細めの白い骨が二つに折れている。


 視線を上げてよく見てみると、上の階層へとつながる薄暗い坑道は万骨ばんこつの道となっていた。

 なんの骨か分からないが、白骨がいたるところにバラ撒かれている。


 多分、グラビスによる演出だろう。

 どこから集めたのか知らないが、この先はヤバいトコロだという雰囲気を出そうとしたにちがいない。


「そもそも、誰ひとりここまでたどり着けないのに、こんな演出まで……」


 そう考えたら、あの変な話し方もムダな演出だよね……。


 そんなことを考えながら、坑道に散らばる白骨をひょいひょい飛び越えて行く。


 坑道内では、さまざまな魔物に遭遇した。

 しかし、これらの魔物をいちいち倒していくのは面倒だ。


 スルーした。

 隠密スキル様様だ。


 なんか、メデューサとかヒュドラとか、うろうろしてたし……。どう考えても、やりすぎだよ。あの魔物たち、普通は単体でボス格だよね。


 さらに薄暗い坑道を、とてとて駆け上がって行く。


 やがて、広い場所に出た。


 中央付近に、大きな背中が見える。

 どうやら、ここは一九〇階層らしい。


「おう? なんだか、鼻がむずむずしおるわい……」


 大きな背中がのそりと動いて、野太い声がした。


 巨人族のブルトス。


 全体的に丸みを帯びた大きな体躯が聳え立つ山のよう。

 灰白色の表皮に尖った耳。まあるくて大きな黒の瞳。

 ピンク色の頭髪に鶏の鶏冠とさかのようなヘアースタイル。 


 普段はのんびりしていて温厚だが、これでも「礎のダンジョン」では竜王グラビスに次ぐ古株の実力者だ。


 グラビスと違って彼の場合、いきなり襲ってくるコトはないので安心だ。


 なのに、この不穏なカンジは、なんだろう?


「どうしたことだ? 鼻が、鼻水が……」


 ゆったりとした口調で話ながら、ブルトスは鼻をむずむずとさせている。


 イヤな予感がする。


 そして、


「ぶ、ぶえ……、ぶえっくしょん! ぶえっくしょん!」


 う、うわぁぁぁ!


 ブルトスが大きなくしゃみをすると、ボクは辺りに散らばっていた白骨と一緒に吹き飛ばされた。

 吹き飛ばされた白骨が、岩壁に当たって粉々に砕けて落ちていく。


 かろうじてボクは、くるりと回転して岩壁を蹴り、激突するのを防いだ。


 しかし……、つやつやふわふわだったボクの毛並みは酷い状態だ。

 ブルトスの唾液と鼻水まみれになってしまった……。


 うぅ、これは酷い……。毛繕い……は、ムリか。どうしよう?


 ブルトスは鼻を指でこすりながら、ずるる、ずるずるっ……と鼻水を啜った。


「……シャノワか? そこにおるのか?」

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