第4話 竜王グラビスの悩み
とりあえず、竜王グラビスがヒマを持て余しているコトだけは理解した。とはいえ、ここはダンジョンだ。素材を求めてやってくる冒険者たちだっているハズだ。
まぁ、二〇〇階層に辿り着けるとは思わないけれども。
「……なんかヒマそうだね。冒険者とか勇者とか来ないの?」
「むぅ、……それなのだ。最近の冒険者や勇者どもは、この階層にたどり着く前に上の階層の連中にやられてしまうのだ……」
彼の前にちょこんと座るボクを覗き込むようにして語るグラビス。
心なしか、しゅんとした表情で寂しげだった。
「うーん。その辺の冒険者ならともかく、勇者だっているでしょ? ここまでたどり着けないなんてコトがあるんだ? いったい、うえの階層にはナニがいるのさ」
するとグラビスは顔を上げて胸を張り、指折り数えながら得意げに各階層のボスを紹介し始めた。
「豪華キャストを取り揃え、一〇階層ごとにボスを配置しておる」
……豪華キャスト?
「いいか、聞いて驚け。まず、スケルトンジェネラルを一〇〇体、スケルトンキングを五〇体彷徨かせて一〇階層のボスにドラゴンゾンビ、それから……二〇階層はブルードラゴン、三〇階層は……」
……頭痛くなってきた。
「アホなのっ! そんなの命からがら逃げるのさえ、ムリゲーだよ」
「む? ムリゲーとは、新種の魔物か? どこに生息しておる? 人気魔獣なのか?」
……くっ、駄目だ。
ダンジョンの主が、ポンコツすぎる。
竜が賢いなんて絶対嘘だ。
いったい、誰がそんなコト言ったんだ?
責任とって欲しい。
「そういうワケで、我の暇つぶしにお前にはここで死んでもらう。大人しく、楽器の素材にでもなるがよい」
いったい、どういうワケなのっ!?
なぜ、みんなボクを楽器の素材にしたがるのっ!?
抗議するヒマもなく、グラビスはくるりと回転して尻尾を勢いよく横に打ち払った。
向かってくるグラビスの尻尾をひょいと飛び越えたボクは、背後を取るためにグラビスにめがけて素早く飛び込んだ。
尻尾の付け根の辺りから、ぴょぴょんとグラビスの背中に飛び乗り頭上まで登る。
そして彼の鼻の上で、シュシュッとねこパンチをする仕草をして見せた。
「また、ボクの勝ちだね」
彼の鼻の上で勝ち誇ったようにドヤ顔すると、グラビスはボクを見ながら口角を上げた。
「バカめ。そういうのを『フラグが立つ』と言うのである」
どうするつもりか知らないが、この状況を打開する「お約束」の反撃があるらしい。
つぎの瞬間、勢いよくダンジョンの岩壁に向けて突進するグラビス。
そして、ズガーンと思い切り自らの顔面を岩壁に打ち付けた……。
大きな音とともに、壁の岩が崩落する。
……ボクは、ひょひょいとグラビスの背中の方へ移動していた。
ついでに隠密スキルを発動する。
彼は、おそらくボクをロストした筈だ。
横面を一発ド突いて、不意討ちしてやろう。
「ぐっぶぶっ、ふははははは。ついに我が宿敵を葬ったぞ!」
頭と鼻から血を噴きながら、天を仰いで勝ち誇るグラビス。
アホだ。
ここに、アホの子がいる。
「ふむ、これがあのネコの血か……」
滴り落ちる紅のそれを掌で受けて、なんとも満ち足りたような声でそう言った。
いや、ココからじゃわからないケド、それはキミの鼻血じゃないかな?
グラビスは、ぼたぼたと手に落ちる血をしばらくは感慨深げに見つめていた。
「強敵であった。しかし、このようなかたちで勝負がつくとは。……グスッ、呆気ないものよ」
「………」
「寂しくなるな………」
項垂れ肩を落として、どこか物悲しげにグラビスが呟いている。
……どうしよう。なんだか、出て行きづらいカンジになっちゃった。
とりあえず、グラビスに見つからないように、そろりそろりとボクはその場所を離れた。
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