第1章 エイベルムの遣いネコ
第1話 界渡ノ洞
ここは、愛知県の人里離れた山の麓。
そこに、今では知る人もいなくなった祠がある。
祠の隣に
境内には、リクライニングベッドの様な長方形の石が南北を指すように並んでいる。何のために並べられているのかは、わからない。
その石の北側は、ちょうど枕のよう形をしていた。
訪れる者は、まずいない。そんな神社でも祠の前に大きな賽銭箱が、その側にはおみくじコーナーまで設けられている。
祠の奥には、高さ約三メートル、幅約二メートルほどある鉄の観音扉。これを囲うようにして鳥居が建てられていた。
普段、この観音扉は固く閉じられている。
大人の力でも、外から開けることはできない。
今は、何者かの気まぐれで、少しだけ開いている。
扉の先がどこまで続いているのか、外からは判らない。
扉の先に何があるのかも、外からは判らない。
外から見て判るのは、
それは、まるで来訪者を誘うように奥へ向かって延びている。
🐈🐈🐈🐈🐈
ボクは、すこしだけ開いた観音扉の間から洞窟へ入る。
薄暗い洞窟内に建つ鳥居のトンネルをとてとて抜けていく。
やがて、奥の方から柔らかな蒼白い光が見えてきた。奥へ奥へと進むにつれ、蒼白い光は大きく広がっていく。
そして、洞窟内全体がほのかに蒼白く光る広い場所に出た。ここは、
朱の千本鳥居が誘う場所。
洞窟のなかにいるハズなのに、見上げれば、まるで満天の星が煌めく不思議な場所。
天井の右から左下へと、小さな光の粒がさらさらと流れ落ちている。
その粒のいくつかが、キラキラ輝いて消えたかと思うと、別の粒のいくつかが、キラキラする。
ネコのボクにはすこしだけ寒い場所だケド、いつまでも眺めていたい場所。
この星河洞のなかに、社殿が建っている。
見る者が変われば、神殿と呼ぶかもしれない。
ボクは社殿の階段をひょひょいと昇り、拝殿へと入る。そして、ちょこんと座り、この場所の主の声を待った。
「ようこそ、おいでくださいました」
どこからともなく響く声。
男性なのか、女性なのか分からない。
社殿の主の姿はない。
その声だけが、社殿内に響いている。
声の主の名は、エイベルム。
詳しいことは、よく知らない。
興味もない。
「お忙しいところ、遠路はるばる、ご足労をおかけします。さて、今回は、どちらへ行かれますか?」
………。
ボクは、ふたつの耳を左右に伏せる。
慇懃な物言いではあるけれど、じつは、こちらへのリスペクトなど微塵も無い。
この社殿の主こそ、ボクを半ば強制的に呼び出した張本人。
呼び出しに応じなくても、強制的にこの社殿に召喚される。
気まぐれで、突然、召喚されたコトもある。
「相変わらず、白々しい質問をするね」
ボクは、右に左に尻尾をぱたんぴたんとさせながら、そう言った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます