わたりネコのアノン

わら けんたろう

プロローグ

 世界は、ひとつだけじゃない。 

 世界の大きさは、決まっていない。


 ニンゲンの数だけ、世界があるから。

 ニンゲンの想いと言葉が、世界を広げるから。


 え? どこに、そんなものがあるかって?


 世界は、そこいらじゅうに在るんだよ。


 ……多分、キミもホントは知っている。

 気が付いていないだけじゃないかな?


 ニンゲンの常識にとらわれていると、わからない?


 うん、そんなコトは無いと思うよ。


 コドモには見えるケド、オトナになると見えない?


 え? オトナになっても、見ることはできるよ? 見ようとしないだけじゃないかな。


 善人ならそこへ行くコトができるケド、悪人だと行くコトができない……というコトもないね。


🐈🐈🐈🐈🐈


 さて、行きますか。おでかけ♪ おでかけ♪


 ここは、ナゴヤという都市にある閑静な住宅街。

 今日も今日もとて、いつものコースを散策中。


 槙の生垣の隙間をすり抜けて、垣根の下をくぐり抜け、側溝のなかをもぐり駆け抜けて、ブロック塀の上にジャンプして、足早に、とてとてと歩いていく。


 見馴れた赤レンガの壁が見えてきた。


 ブロック塀の上から、側に生えている樹木の枝に跳び移る。葉や枝の間から、金色の木漏れ日がボクの顔に降り注ぐ。


 すこしだけまぶたを閉じて、ゆっくり開いた。


 視線の先に……、いた、いた。彼だ。


 そろそろと枝を伝って、ひょいと庭に跳び降りる。


 おっじゃましまーす。


 ボクはとてとてと駆け寄って、彼の側にちょこんと座る。


「やぁ、久しぶり。よく来たね」


 陽当たりの良いテラスで紫煙しえんくゆらせながら、彼はニコニコしてボクを迎えてくれた。


 彼は、ポッサ。


 ポッサは、誰かが勝手につけた彼の呼び名。

 本当の名前は、トーマスというらしい。


 ポッサは、テラスに置いてある椅子に腰かけた。ボクも彼の前にあるテーブルにひょいと飛び乗って、ちょこんと座る。すらりとした自慢の黒いしっぽを左右にふりふり。


「今日は、どんなお話を聞かせてくれるのかな?」


 ボクは、前足をペロペロして顔を洗って、ついでに体の毛繕いをして身なりを整える。


 そして彼の顔を見て、それらしく、


 ニィと、ないてみた。


 では、始めよう。

 昨日まで旅した異世界のお話を。

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