第6話

「ヘザー、大丈夫ですか?」


 誰かが私を優しく揺すぶる。


 ああ、先生だ。まだここにいてくれたの? 先生はベッドの上に腰を下ろすと、私の体を自分の膝の上に抱えあげた。こんなに大きな体つきなのに子供みたいで恥ずかしい。だけど彼に抱きしめられていると激しい動悸も少しずつ収まってくる。


「また……あの夢ですか?」


 耳元で彼が尋ねる。


「うん」


 先生は部屋の隅の古い肘掛け椅子の上で眠っていたらしい。早朝から仕事があるっていうのに帰らずに見守ってくれてたんだ。


「ごめんなさい」


 謝ったとたん、胸を引き裂く激しい哀しみに襲われ、私は身体を二つに折り曲げた。先生が驚いて私の顔を覗き込む。


「ヘザー? 震えてるじゃないですか。暖かいものを持って来ましょうか?」


「ううん、どこにも行かないで」


 私は先生の首に両腕を回し、彼の唇に自分の唇を押し付けた。彼は一瞬身体を硬くしたけれど、すぐにキスを返してくれた。彼の唇は柔らかくて暖かい。私が身体を離すと、先生が言った。


「意外に大胆なんですね」


 彼の声に込められた驚きと賞賛に私は恥ずかしくなった。


「先生がちゃんと人間なのか確かめようと思って」


「……何のことです?」


「夢の中の先生はロボットだったの」


「僕が?」


「ご飯も食べないし、人工の皮膚はデリケートだからって外にも出ないの。それに、先生は先生じゃなくって『レフア』だったし」


「『レフア』ですって?」


「うん。先生の身体は『レフア』のユニットなの」


「それは酷いな。僕とあの頑固者を一緒にしないでください。ヘザー、やっぱりあなたは専門医に見てもらったほうがいい」


 不安を煽る口調に顔を上げれば、彼の顔には意地の悪い笑みが浮かんでいる。からかわれてるのだと気付いて私も笑った。


「それで? 僕は人間ですか?」


「うん、人間だった」


「本来ならもっとしっかり確かめてもらいたいところなんですが、今夜はもう眠ったほうがいいですね」


 彼はもう一度私にキスすると、名残惜しそうに私を膝から下ろした。どうやらこの人は筋金入りの医者らしい。ロマンティックな展開は期待するだけ無駄みたい。


 その時、視界の端にちらりと赤い色が映った。それが何なのかに気付いた時、私は叫び声をあげそうになった。ああ、まただ。悪夢が私を追いかけてくる。


「先生、私、眠りたくない」


 眠ったら最後、捕まってしまう。


「ですが……」


 私は彼の体にしがみついた。


「先生、お願い。私と一緒にいて。離さないで」


「夢が怖くて眠れないのですか?」


 私はうなずいた。


「思ったより重症のようですね」


 彼は真剣な表情で私の肩を掴むと、いきなり自分の身体から引き離した。先生、酷いよ。救いを求めてる人間を突き放すなんて。それとも私が本当に病気だっていうの?


「横になってください」


「でも、私、寝たくないよ」


 それでも先生は強引に私の身体を毛布の上に横たえる。


「先生……」


「眠らなくてもかまいませんよ。今すぐに治療することにしましたから」


 耳元でそうささやくと、彼はしなやかな指で私のパジャマのボタンをはずし始めた。


「先生?」


「治療を拒否されますか?」


 真面目な口調は崩さないけれど、先生の顔は今にも笑い出しそうだ。私も笑って首を横に振った。


「ほんとの事を言えば、誘惑に耐え切れなくなったんです。ヘザー、あなたが悪いんですよ」


 照れたようにそう言うと、彼は私にそっと口付けを落とした。



        *****************************************



 先生はとても優しく私を愛してくれた。壊れ物を扱うように、かけがえのない宝物を慈しむように。


 ブラインドの隙間から朝の光が差し込んでくる。柔らかなシーツの下で私は彼のぬくもりに身を寄せた。私を抱きしめたまままどろんでいる彼の形のよい唇にそっと自分の唇を重ねると、彼はうっすらと目を開けて微笑みかけてくれた。その微笑みを信じていられたら、いつまでもこうしていられたら、どれだけ幸せかわからないのに。


 でも、そうはいかないんだ。おとぎ話ベッドタイムストーリーの時間はもうおしまい。そろそろ現実に向きあわなっくっちゃ。


「先生は何を考えてるの?」


 私は尋ねた。


「あなたの事を」


 夢見るような微笑を浮かべたまま、彼は私の髪に指を滑らせる。気障なセリフも仕草も彼にかかれば自然に感じられるから不思議なものだ。


「そういう意味じゃないよ」


「では、どういう意味でしょう?」


 私は彼から離れて身を起こし、シーツを身体に巻きつけた。彼と一つになれた充足感がまだ身体の奥を満たしている。でも、流されちゃいけない。これだけはどうしてもはっきりさせなくちゃならないんだから。


「『レフア』は私をどうするつもりなのかって聞いているの」


 彼は戸惑った様子で私を見返した。


「ヘザー? また、夢の話ですか?」


「しらばっくれないで」


 私が本棚の上の小さな赤いカンガルーのぬいぐるみを指差すと、彼の顔から微笑みが消えた。


「……気付いてたんですね。いつから?」


「先生とキスした後すぐに」


 だって私、あんなヘンテコなぬいぐるみ、持ってなかったもん。


「邪魔をするなと彼には釘を刺しておいたのですけどね」


 彼はため息をつくと裸の上半身を起こし、訝しげに私を見つめた。


「気付いていたのに僕に抱かれたんですか? どうして?」


「先生が好きだから。ほかに理由が必要なの?」


「いえ……でも、大嫌いって言ったじゃないですか」


「うん、大嫌い」


「え?」


 彼は困惑した表情で目をしばたたかせている。どうせあなたには恋心なんて理解できない。冷たい基板の塊なんだから。


 でもね、悔しいけれど、私はあなたが好きみたい。これがあなた達の作り出した幻影だと、愛などない行為だと分かっていても、想いを遂げずにはいられなかった。


 辛いことばかりなんだもん。ちょっとぐらい幸せな夢を見させてもらっても罰はあたらないでしょ?


「もうあなた達には騙されないよ。こんなところに引きずり込んで今度は何を企んでるの? 仮想の世界で浮かれてる間に、私の身体に受精卵を植えつけるつもり?」


「なんて事を言うんですか。そんな酷いことしませんよ」


 彼は心底傷ついた顔をした。


「僕はただ、ここでこのままあなたに夢を見ていてもらおうと思っただけなんです」


「でも、そんなことしたら、人類が滅んじゃうんでしょ?」


「あなたの不幸そうな顔を見てるよりはずっとましですよ」


「本気で言ってるの?」


「僕は医者なんです。患者には幸せでいてもらいたい。これがあなたにとって一番よい方法だと判断したのです」


 彼が嘘を言っているようには思えなかった。医者としての本分を守るほうが任務よりも重要だったということだろうか。


「でも、ほかの人たちは? 許してくれたの?」


「『ジンジャー』にはバラバラにして組み立て直してやると脅迫されてます。僕が狂ったと思ったんでしょうね。そこの彼だって協力的とは言えませんし」


 彼は棚のカンガルーに目をやった。おいらはあんたを諦めないぜ。ガラスの目玉がそう訴えているようだ。仮想世界の主のささやかな抵抗だったわけね。


「でも、ここで暮らすなんて無理でしょう? 仮想の世界だって知ってるのに気付かないフリなんかできないよ」


「つらい記憶は消してしまえばいいんです。これからは毎日幸せな夢を見て暮らすんですよ」


「さっきの続きでもいいの?」


「もちろん構いません。あなたの望むことは全て叶えましょう」


 なんて甘い誘惑なんだろう。嫌な事を全て忘れられたらどれほど楽になれることか。昔みたいに家族と暮らして、会社に通って、素敵な人と結婚して、家庭を築いて、夢に描いていた通りの人生を歩めたら。


「すごい。まるで魔法だね」


「ええ、そうですね。本物の魔法ではありませんけどね」


「本物の魔法って?」


 彼のわけ知り顔に私は尋ねた。


「とっても素敵な魔法のことですよ」


 先生は意味ありげな笑みを浮かべる。科学技術の粋を集めて作られた『レフア』が魔法の話をするなんて。私は興味をそそられた。


「お医者さんのくせに魔法なんて信じてるの?」


「ええ、信じていますよ。なぜって、僕が自ら体験したことですからね。聞きたいですか?」


 私がうなずくと、先生は静かに語りだした。



        *****************************************



「遠い昔のお話です。あるところに医者がおりました。医者は病気の人達を助けてそれは満ち足りた日々を送っていました。ところがある時、世界中で恐ろしい疫病が流行り、ほとんどの人間が死んでしまったのです。医者はまだ病気にかかっていない人たちを安全なところに隠し、眠りにつかせました」


「昔話みたいだね」


「あなたの子供たちに語って聞かせようと思ったのですがその機会はなさそうです。代わりにあなたが聞いてください」


 彼がちょっぴり寂しそうな顔をしたので、私は責められているような気持ちになった。でも、彼は気付かぬ様子で話を続けた。


「医者は何年も何年も眠っている人達の面倒を見ていました。彼には頼りになる仲間がおりました。リーダーの女騎士、お調子者の魔術師に知恵者のフクロウ、ほかにもたくさんの仲間達がいたのです。誰もが人間達が目覚める日を心待ちにしながらそれぞれの役目を果たしていました。


 ところが疫病を撒き散らした魔女が人間達の事を知ってしまったのです。魔女は医者達の仲間に化けて、眠っている人達を殺してしまいました。残ったのはお姫様一人です。医者と仲間達は苦労の末、魔女を倒し、魔女の残した恐ろしい毒や呪文をひとつひとつ始末していきました。そしてついに女騎士が言いました。さあ、姫君を起こしましょう、と」


 彼はそこで言葉を切って私を見た。


「けれども、姫君は目を覚ましてはくれませんでした。医者は毎日彼女の顔を眺めて暮らしました。なんとか彼女を起こそうと世界中のあらゆる文献まで調べつくしたのに、どうしても姫君は目覚めようとしないのです。魔術師は言いました。姫君には呪いがかけられている。本物の魔法だけがこの呪いを解くことができるんだってね」


「魔術師って『スレイド』のこと?」


「そうです。彼は剣と魔法の王国の支配者ですからね。魔法についてもとても詳しいんです」


 彼は棚の上のぬいぐるみを見上げ笑顔を浮かべた。


「魔術師は医者に呪いを解く方法を教えました。医者になら本物の魔法が使えると彼は知っていたのですね」


「その魔法はどうやって使うの?」


「簡単です。お姫様に口付けをすればいいんですよ」


 ほうら、やっぱりね。キスだけじゃ魔法なんて解けやしないのに、彼らにはそこが分かってない。


「でも、魔法を解くのはキスじゃないよ。真実の愛だよ」


 彼は私の目をまっすぐに見つめて微笑んだ。


「ええ、もちろん医者は知っていましたとも。だから、呪いが解けたんです。そうでしょう?」



        *****************************************



 先生のくすんだ青色の瞳が私を見つめる。初めて診療室で会ったときから、私の心をとらえて放さなかった暖かい瞳。優しい瞳。


「唇が触れる瞬間、医者は考えました。姫君さえ目を覚ましてくれるのなら、彼女が彼に微笑みかけてさえくれるのなら、この世界などどうなってしまっても構わないと。すると悪い魔法はたちまち解けて姫君はぱっちりと目を開いたのです」


 胸の鼓動が早くなる。彼にはちゃんと分かってた。真実の愛こそが本物の魔法だって。だけど、だけど……。


 震える声で私は言った。


「でも……おかしいよ。先生は私の事を好きになんてなれないのに」


 彼は首を傾げた。


「それはどういう意味でしょうか? 僕はあなたが好きですよ。あなたもご存知だとばかり思っていたのですが……」


「だって先生は『システム』だもん。人を好きになったりしないでしょ?」


「そうですね。僕達は人間のように脳内物質の影響は受けませんから、あなたの考える好きという気持ちとは違うのかもしれません。それでも僕はあなたが好きです。あなたさえ幸せでいてくれるのなら、任務などどうでもいいと思えるほどにあなたが好きなんです」


 だから死んでも構わないって言ったの? 仮想の世界ここで暮らしてもいいって言ったの? 私の苦しむ姿を見たくなかったから?


「でも、どうして? あなたが私を好きになる理由なんてないのに」


「なぜそう思うのですか? あなたとの約束があったからこそ、僕は今までやってこれたのですよ。一人の患者も訪れない病院がどれほど惨めなものなのか想像がつきますか? この七十二年間、あなただけが僕の心の支えだったのです」


 私の呆然とした顔を見て先生が微笑んだ。


「どうやら僕達の間には誤解があったようですね」


 結局のところ、私は失恋などしていなかったらしい。でも、私が誤解したのは先生のせいだ。私は彼を思いっきり睨みつけた。


「先生の……馬鹿」


「ヘザー? 今度は怒ってるんですか? どうして?」


「だって先生、ボタイ、ボタイって言うんだもん。私の体が目当てだと思うでしょう? 誤解するのも当然だと思わない?」


 体が目当てって言っても、普通とはちょっとニュアンスが違うけどさ。


「それが原因だったのですか。あの時はやっとあなたと将来の話ができると思い、つい浮かれすぎてしまったのです。すみませんでした」


 先生、女の口説き方、間違ってるよ。最初に子供の話なんかされちゃ誰だってひくに決まってる。


「もしかして僕の事を大嫌いだと言ったのもそのせいですか?」


「うん」


「それならもう嫌われてはいないわけですね」


 彼の期待に満ちた眼差しに私は赤くなった。


「聞かなくても分かるでしょ?」


「よかったです。正体を知ってフラれたのだと落ち込んでいたんですよ。正直に言えば、あなたを仮想世界ここに連れてきたのもそれが理由なんです」


「どういうこと?」


「すべてを夢だった事にしてしまえば、あなたは僕を愛してくれるだろうと思ったんですよ」


「先生、それ、ずるい 」


「七十二年間も待ち続けた挙句、フラれた身にもなってください。それにあなたは僕のものですからね。たった一人の患者を逃がすつもりはないんです」


 言ってることは穏やかでないけれど、彼の瞳はとても優しくて、私は目覚めてから初めて安心できる居場所を見つけたような気がした。


 つまり、物語の結末はこういうことらしい。目を覚ましたお姫様は、恋に狂った医者に囚われてしまった。助けに来てくれる王子様はどこにもいない。でも、お姫様はそれでもとても幸せで、きっといつまでも満ち足りた気持ちで彼と暮らしたんだろう。


「先生、女の人と寝たことあったの?」


「いえ、ありません」


「でも、さっきは……」


 女性を抱き慣れている感じがしたとは言いにくい。私の疑問の内容を察したのか、彼は笑って説明してくれた。


「『スレイド』の協力があれば簡単なことですよ。ご存知ないとは思いますが、RUFUSルーファス社の収益の七割以上はアダルト向け体感ゲームの売り上げによるものでしたからね」



        *****************************************



 ブラインドの隙間から朝の光が流れ込んでくる。時計を見ればもう八時過ぎだ。外からは子供の笑い声や、通勤の車が通りを走る音が聞こえてくる。窓を開けたらジョギングや犬の散歩をしている人達の姿が見えるんだろう。


 先生が起き上がってシャツを羽織った。


「さあ、そろそろ記憶を消しましょう。あなたの身体は僕が責任を持って面倒を見ますので心配はいりません。半冬眠状態にすればかなり寿命も伸ばせるはずです」


「私、また冬眠するの?」


「今度は凍らせてしまうわけではありませんよ。身体の代謝を少し下げる程度です。脳の活動はゆっくりになりますが、仮想世界ここにいるあなたには違いは感じられないでしょう」


 先生は壁の時計を見上げた。


「今から僕は『ドクター・ティレット』に戻ります。今朝は仕事に遅刻して『レフア』に散々嫌味を言われたと、夕食の席であなたにこぼすことになりそうですね」


 彼は笑っていたけれど、その笑顔はなんとなく寂しそうに見えた。


「先生」


「はい」


「もう、いいよ」


「何がいいのですか?」


「私、起きる。起きて子供を産む」


「ヘザー? 本当ですか? 本当にいいんですか?」


 先生は信じられないといった顔で私を見つめてる。大きくうなずくと彼は思い切り私を抱きしめた。なんだかんだ言ってもやっぱり先生にとって任務は大切だったんだろう。 


 悪夢から逃げ回るのはもうおしまい。何もかもがニセモノの人生なんて欲しくない。一生に一度ぐらいは勇気を出してみよう。失敗すれば人類が絶滅してしまうだけの話。何もしなければ間違いなく絶滅しちゃうんだから、気にすることなんてないよね。


 それに、今度は頑張れる気がするんだ。七十二年間も私を守り続けてくれた人がそばにいてくれれば、悪い夢だって素敵な現実に変えて行けるはず。


「でもね、一つ問題があるんだ」


「なんでしょう?」


 彼の顔が少し翳った。私の気が変わっては大変だと思ったんだろう。でも、この際、言うべきことはみんな言っておかなくっちゃ。


「私のパパは、結婚もせずに妊娠するのだけは絶対に許さないっていつも言ってたの。パパはもういないけど、約束だけは守りたい」


「……結婚相手が病院でも構わないでしょうか?」


 遠慮がちに先生が尋ねた。


「うん、ママは私を医療関係の人と結婚させたがってたから」


「それはよかったです」


 彼の安堵の表情に私までつられて笑ってしまった。


「子育ても手伝ってね。私、経験ないよ」


「もちろんです。小児科の子供達を見てきましたから任せてもらって大丈夫ですよ」


「でも、子供のことで赤毛の姑にうるさく言われるのは真っ平ごめんだよ」


 彼は一瞬不思議そうな顔をしたけど、すぐに笑い出した。


「うまいこと言いますね。でも分かってあげてください。あの人は早く孫の顔を見たいだけなんです」


 こうなってくると不思議なもので、母親になるのも悪くはないって気がしてきた。でも、もう一つだけ注文をつけておこう。


「たまには仮想世界こっちでデートしてくれる? 先生のユニットじゃキスもできないみたいだから」


「喜んで。夕食の約束も忘れないでくださいよ」


 そのとたん、我慢できなくなったのか、ぬいぐるみのカンガルーが跳ね上がった。


「デートコースならおいらに任せておくれよ。今度は最高に豪華なホテルに泊まらせてやるぜ。先生だってもっとマッチョにした方がヘザーのタイプだろ?」


 まったく調子がいいんだから。私は彼に指を突きつけた。


「あなたにも最初に言っておくわ。うちの子供たち、ゲームは一日一時間までよ。分かった?」


「分かったよ、分かったよ」


 赤いカンガルーが部屋中を跳ね回る。勢いよく開いた窓の外では次々と花火が上がり、遠くから歓声が聞こえた。みんなが固唾を呑んで私達のことを見守っていたらしい。プライバシーなんてあったもんじゃない。


 先生が笑顔で両手を差し出した。


「それでは、姫君。お目覚めの準備はよろしいでしょうか?」


 差し出された手を強く強く握りしめる。新しい王国が私達を待っている。私がうなずくと、彼はもう一度私にキスをした。



 - おわり -

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眠れる姫と星の神 モギイ @fluffymoggie

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