月の雫 愛を唄う

牛☆大権現

第1話

「月の雫 あなたの唇に注がれて♪

 私にそっと触れてくれるの ♪ 」


 世紀の歌姫と呼ばれる女がいた。

 彼女は、才女であった。


 その声は人種民族の別なく、人々の心に届き。

 歌は、言語の壁を越えた。


 世界を魅了してやまない歌姫、その名を 待夜まちや 月雫しずく


「ただいま~」


 そんな彼女も、人間であった。


 自分の家に帰ってくるや否や、台所に見える背中に飛び付く。


「えへへ~、一週間振りの慎也しんやの背中だぁ ~」

「こら、料理中に危ないだろ。

 お前が火傷したらどうするんだ? 」


 慎也しんやと呼ばれた男は、叱るように注意しながらも、歌姫を背中から引き剥がすことはしない。


 やがて、背中に歌姫をくっ付けたまま、料理を机に並べ始める。


「いつまでもくっついてると、料理冷めちゃうよ。」


 慎也しんやがそう言ってから、漸く月雫しずくは離れる。


 けれども、椅子に座っても、側面にくっつきピッタリ離れない。

 とても食べにくそうだが、それでも慎也は抵抗しないままだ。


「全く、月雫しずくは昔から変わらないね」


「そうかな?

 私結構、有名になったんだけど」


「それは知ってるよ。

 けどさ、幼稚園の時から、俺にくっついて離れない所は、同じじゃない。」


 月雫しずくは、ポカッと脇腹を殴るが、慎也しんやに答えた様子はない。

 ただ笑みを浮かべるだけだ。


 そんなこんなで二人は風呂に入って、就寝する。


 夢を見た。


 池に写るのは、自分ではない自分。

 豪華なドレスを着た月雫しずく


「アムリタ様、どうかお逃げ下さい。

 私は、殿を務め時間を稼ぎます 」


 そう言ったのは、騎士のような鎧を着た男。

 その顔は間違いない、慎也しんやの姿。

 この世で誰より愛しい、幼馴染み。


 目が覚めた。

 飛び起きて、掌は汗でびっしょりと濡れている。


「どうしたんだ、月雫しずく?」


 慎也しんやが起きてきた。


慎也しんや、死んじゃいや……」


 月雫しずくは、慎也しんやの胸に飛び込んで、静かに泣き始めた。


「何だか知らないけど、大丈夫だよ。

 俺は、どこにも行かないから 」


 慎也しんやは、強引に月雫しずくの唇をふさぐ。

 月の光が、雫のように二人の上に落ちた。



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月の雫 愛を唄う 牛☆大権現 @gyustar1997

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