第5話
そんな状態の中のある日、俺はいつものように漁に出た。
晴れた風のない日で海はべた凪だった。
遭難したくても遭難できないほどに。
そのまま沖合いに出て漁をしていると、ふと気付いた。
波が立ち、海面の一部が大きく盛り上がっている。
まるで巨大な壁ができたかのように見えた。
――なんだ?
こんなものは今まで見たことがない。
一瞬津波ではないかと思ったが、そうではなかった。
その正体が姿を現したからだ。
巨大な何か。
それが海の下から浮上してきたのだ。
それが一つの大きな生物とわかるまで、時間はかからなかった。
あまりにも巨大で身体の一部しか見えないために全体像はつかめない。
ただ動く真っ黒な長い塊が見えるだけ。
その大きさは百メートルやニ百メートルなんてものではない。
もっとはるかに大きい。
――怪物……。
そいつの起こした波で俺の船が大きく揺れたとき、工藤さんが言ったという言葉が思い出された。
そう、こいつはまさに怪物だ。
それ以外の言葉は思いつかない。
するとそいつが突然巨体からは想像できない速さで、俺の船に向かって来た。
ただの漁船である俺の船は、木の葉のようにあっけなくふっとばされた。
海に投げ出されて沈み行く俺は、そいつの俺の身体の十倍はあろうかと思える巨大な眼と眼が合った。
終
バハムート ツヨシ @kunkunkonkon
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