最終話 エピローグ

―― 辺りは真っ白な精神世界



後藤

「IDかアドレス、交換したかったです」


長崎

「…そうだな…」

「まぁ、でも…これで良かったんだよ」


後藤

「何でですか?」

「…こんなの…悲しいですよ。やっぱり」


長崎

「悲しかったな…泣いたし」


後藤

「ふふ、私に惚れてたんじゃないですか?」


長崎

「ただの、一目惚れだよ」

「まぁ、後藤さんも、バレバレだったよ。積極的だったし」


後藤

「そうですよ。かなりグイグイ行ったのに、何も聞かないんですもん。最期まで」


長崎

「はは、ごめんごめん」


後藤

「私とは、ダメでしたか?」


長崎

「ううん、違うよ」

「もったいない、って思った」

「後藤さんみたいな素敵な人が、俺なんかに関わっては、もったいないと思った」


後藤

「そんなことないですよ?」


長崎

「俺は人生のレールから転がり落ちた」

「地位も財産も、何もない男なんだよ」

「後藤さんは、さぁこれからだ!ってレールに乗ったばかりだ。未来は輝いていて、前が見えないだろう?」


後藤

「よく、わかりません」


長崎

「これから先、後藤さんには素敵な出逢いが幾つも待っているのさ。今、こんなところで、わざわざ落ちぶれた男に構ってる暇はないくらいさ」


後藤

「……」


長崎

「もし……違う出逢い方を、していたなら……俺は、後藤さんを彼女にしようと躍起になっていただろう」

「だが、今の俺は……俺はギリギリのところにいるんだ」

「一度は死んでもいいって思った。少し生き延びるための短期バイトだった」

「でも、そこには後藤さんがいた。もう一度レールに這い上がろうと思わせてくれた後藤さんがいた」

「本当に、後藤さんと出逢えたことだけで、心からありがとうと思った。」


後藤

「長崎さん、じゃあ早くレールの上に戻って来てくださいよ。私は待ってますよ。そんなところにいないで早く私を迎えにきて下さいよ……」

「……寂しいですよ……また涙が……」


長崎

「だから、俺は止めとけって。そこに上がるまで十年掛かるかも知れないんだぞ」


後藤

「……十年後は、私まだ三十前半です。待てますよ」


長崎

「……わかった、わかった。十年後、もし後藤さんが独り身だったら付き合うか?……いや、付き合おう……」

「……付き合って下さい!」


後藤

「はい!お願いします!」





人生の交差点。


転落人生の長崎。

未来輝く女子大学生、後藤。


二人の人生が交差した。


長崎が社会のレールから転落したからこそ

出逢えた二人だった。


しかし、転落した長崎には

素敵な結末を、迎えるだけの力がなかった。

今を生きるのに、精一杯だった。


奇跡の出逢いの結末は

別れる運命だったのかも知れない。


レールから転落した長崎は

後藤の未来を思い、想いを諦めた。


それでも、諦めきれない後藤は

未来に望みを、想いを、託した。

長崎も、それに応える。



人の人生を描く線。


全く交わらなそうな、そんな遠くから

やってきた二つの線は

ここで、交差した。


くるくると、何度か絡まり

そして、今。


二つの線は、また離れ出す。

だんだんと、離れて行く。


もう、二度と交差しない距離。


お互いが、全く交わらなそうな

そんな距離を、二つの線は

進んでいた。




十年後。

二つの線が、交差。

していますように。


【― 終 ―】

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短期バイト 浦上 とも @ura0912

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